第六十四話 花屋への呼び出し
翌朝。
私は王宮の客室で目を覚ました。
窓の外は、まだ薄暗い。
昨夜のことを思い出す。
クリス殿下が襲われた。
そして。
犯人は、まだ捕まっていない。
「……。」
胸の奥が重い。
その時。
コンコン。
扉が鳴った。
「はい。」
「フラン様、お手紙が届いております。」
「手紙?」
侍女から封筒を受け取る。
差出人は書かれていない。
嫌な予感がした。
封を開ける。
『店主が危険です。
すぐに花屋へ来てください。』
「……!」
私は立ち上がった。
「店主さんが?」
「どうされましたか?」
侍女が驚く。
「花屋へ行かないと!」
「お待ちください。殿下の許可が――」
「でも、店主さんが危ないんです!」
私は扉へ向かう。
その瞬間。
「フラン。」
後ろから声がした。
「殿下……。」
クリス殿下が立っていた。
肩にはまだ傷の手当てがされている。
「どこへ行くつもりですか?」
「花屋です。」
「なぜ?」
「店主さんが危険だと手紙が……。」
私は手紙を渡す。
クリス殿下が読む。
「……。」
しばらく黙る。
「これは罠です。」
「でも、店主さんが本当に危ないかもしれません。」
「分かっています。」
「だったら――」
「だからこそ、私も行きます。」
「殿下も?」
「はい。」
クリス殿下が騎士を見る。
「花屋へ向かう準備を。」
「承知しました。」
◇ ◇ ◇
馬車の中。
私は落ち着かなかった。
「店主さん、大丈夫でしょうか。」
「分かりません。」
「……。」
「ですが、必ず確認します。」
クリス殿下が私を見る。
「フラン。」
「はい。」
「何があっても、私から離れないでください。」
「はい。」
「絶対にです。」
「分かっています。」
馬車が街へ入る。
いつもなら見慣れた景色。
けれど。
今日は何もかもが不気味に見えた。
◇ ◇ ◇
花屋の前に到着した。
「……。」
店の扉が開いている。
「店主さん!」
私は駆け寄ろうとする。
クリス殿下が腕を掴んだ。
「待ってください。」
「でも!」
「先に騎士を。」
騎士が店内へ入る。
「異常ありません!」
「店主は?」
「……いません。」
「え?」
私は店の中へ入る。
「店主さん!」
返事がない。
店内は荒らされていない。
花も。
机も。
いつも通り。
ただ。
カウンターの上に。
一枚の紙が置かれていた。
クリス殿下が拾い上げる。
『西の倉庫へ来い。
一人で来れば、店主は返す。』
「……。」
私は息を呑んだ。
「店主さんを連れて行ったんですか?」
「その可能性が高いです。」
クリス殿下が紙を握る。
「ですが。」
「はい?」
「あなた一人で行かせるつもりはありません。」
「でも、犯人は一人で来いと。」
「関係ありません。」
クリス殿下の目が鋭くなる。
「あなたを一人で行かせるくらいなら、罠だと分かっていて私も行きます。」
「……。」
私は頷いた。
「分かりました。」
その時。
外から騎士の声が響いた。
「殿下!」
「どうしました?」
「店の裏に、馬車の跡があります!」
「どこへ続いている?」
「西の倉庫街です。」
クリス殿下が立ち上がる。
「行きましょう。」
「はい。」
私たちは花屋を出た。
その様子を。
向かいの建物の影から、一人の女性が見つめていた。
「来たわね。」
女性は小さく笑う。
「これで二人とも、こちらの思惑通り。」
そして。
西の倉庫街へ向かう馬車を見送りながら。
「今度こそ。」
静かに呟いた。
「終わらせるわ。」




