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氷の王子は恋を知ったら止まらない  作者: S@Y@


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第六十一話 捕らえられた内通者


 廊下から聞こえていた足音が、次第に遠ざかっていく。


「殿下、追わなくていいんですか?」


「追っています。」


 クリス殿下は私の手を握ったまま答えた。


「ですが、あなたを一人にする方が危険です。」


「……。」


 その時。


「殿下!」


 廊下の先から騎士が戻ってきた。


「捕らえました!」


「本当ですか?」


「はい。階段の先で確保しました。」


 クリス殿下の表情が険しくなる。


「連れてきてください。」


「承知しました。」


 しばらくして。


 二人の騎士に挟まれて、一人の侍女が連れてこられた。


 さっき私の部屋へ食事を運んできた女性だった。


「……。」


 侍女は俯いたまま、何も言わない。


「名前は?」


 クリス殿下が尋ねる。


「……ミレナと申します。」


「王宮に仕えて何年になりますか?」


「三年です。」


「なぜ、フランの部屋へ?」


「食事を運ぶよう命じられました。」


「誰に?」


「……。」


 ミレナは黙り込んだ。


「答えてください。」


「……申し訳ありません。」


 クリス殿下の声が低くなる。


「誰に命じられた?」


「私には……言えません。」


「では、別の質問をします。」


 クリス殿下が一歩近づく。


「フランの予定を、誰から聞きましたか?」


「……!」


 ミレナの顔色が変わった。


 私は息を呑む。


「やはり、知っていたんですね。」


 クリス殿下が静かに言う。


「……。」


「誰が教えた?」


 長い沈黙。


 やがて。


「……文官の方です。」


「名前は?」


「アルベルト様です。」


 クリス殿下の目が細くなる。


「先ほど調べていた文官か。」


「はい……。」


「何を頼まれた?」


「フラン様の予定を伝えること。」


「それだけですか?」


「……。」


 ミレナの唇が震える。


「王宮から連れ出す方法も、考えるように言われました。」


「……!」


 私の背筋が凍った。


「誰の命令ですか?」


「アルベルト様からです。」


「その先は?」


「知りません。」


 クリス殿下が黙る。


「本当に?」


「はい!」


 ミレナは涙を浮かべながら答えた。


「私はお金を渡されただけです。誰が命令したのか、本当に知りません!」


 クリス殿下は騎士を見る。


「アルベルトを拘束してください。」


「はい!」


 騎士が走り出す。


 ◇ ◇ ◇


 しばらくして。


「殿下!」


 別の騎士が駆け込んできた。


「アルベルトを確保しました!」


「どこにいた?」


「自宅です。」


「何か証拠は?」


「はい。」


 騎士が封筒を差し出す。


「机の引き出しから、こちらが。」


 クリス殿下が封筒を開く。


 中には。


 金銭の受け渡し記録。


 私の予定。


 そして。


 見覚えのない紋章が描かれた紙が入っていた。


「この紋章は……?」


 私が尋ねる。


 クリス殿下が答える。


「まだ分かりません。」


 その時。


 レオン殿下が部屋へ入ってきた。


「兄上。」


「レオン。」


「アルベルトが何か話した?」


「まだです。」


 レオン殿下が書類を見る。


「これ……。」


「何ですか?」


「この紋章。」


 レオン殿下の表情が変わる。


「王家の古い紋章に似てる。」


「王家の?」


 クリス殿下が紙を見つめる。


「……確かに。」


 レオン殿下が続ける。


「でも、今の王家では使われていないはずだよ。」


「では、誰が?」


 誰も答えられない。


 クリス殿下は紙を握りしめる。


「調べます。」


 そして。


 私を見る。


「フラン。」


「はい。」


「この件が片付くまで、絶対に一人にならないでください。」


「分かりました。」


 私は頷いた。


 けれど。


 クリス殿下はまだ知らなかった。


 古い王家の紋章が。


 なぜ今になって現れたのか。


 そして。


 その紋章を使う人物が。


 すでに王宮の中へ入り込んでいることを。

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