第五十六話 消された証拠
封筒を握ったまま。
クリス殿下はしばらく動かなかった。
「……フラン。」
自分の名前が書かれた封筒。
しかも。
王宮の中で、誰かが密かに運んでいた。
「殿下!」
追いついてきた騎士が息を切らしている。
「何があったのですか?」
「この封筒を調べてください。」
「承知しました。」
クリス殿下は封筒を渡す。
「それと。」
「はい。」
「今夜、王宮にいる侍女を全員調べてください。」
「全員ですか?」
「はい。」
クリス殿下の声に迷いはなかった。
「ただし、騒ぎにはするな。」
「承知しました。」
騎士が去っていく。
クリス殿下は封筒を見つめる。
その中身が。
フランに関するものなら。
決して見逃すわけにはいかなかった。
◇ ◇ ◇
翌朝。
私は自分の部屋で目を覚ました。
「……。」
昨夜のことを思い出す。
王宮にいるのに。
まだ誰かに狙われている。
その事実が怖かった。
コンコン。
扉が鳴る。
「はい。」
「フラン。」
クリス殿下の声だった。
「殿下?」
扉を開ける。
「おはようございます。」
「おはようございます。」
クリス殿下はいつも通りだった。
けれど。
どこか疲れているように見える。
「どうしました?」
「何がですか?」
「少し、眠そうです。」
「……少し寝不足なだけです。」
「何かあったんですか?」
クリス殿下は一瞬黙った。
「昨夜、少し問題がありました。」
「問題?」
「侍女の一人が、不審な行動をしていました。」
「……。」
「ですが、今は大丈夫です。」
「本当に?」
「はい。」
クリス殿下は私を安心させるように笑った。
「あなたは何も心配しなくていいです。」
「でも……。」
「大丈夫です。」
そう言って。
クリス殿下は私の頭を優しく撫でた。
「私を信じてください。」
「……はい。」
私は頷いた。
◇ ◇ ◇
その頃。
王宮の地下にある小さな部屋。
一人の男が机に座っていた。
「失敗したか。」
目の前には。
昨夜、逃げた侍女がいた。
「申し訳ありません。」
「封筒は?」
「殿下に見つかりました。」
「そうか。」
男はため息をつく。
「だが、まだ終わっていない。」
「……はい。」
「フラン嬢は?」
「王宮にいます。」
「ならば、計画を早める。」
「しかし、警備が厳しくなっています。」
「構わない。」
男は立ち上がる。
「次は、王宮の中からではない。」
「では……。」
「外からだ。」
男が窓の外を見る。
「彼女が花屋へ戻った時を狙う。」
◇ ◇ ◇
昼。
クリス殿下と私は庭園を歩いていた。
「久しぶりに外へ出ました。」
「まだ王宮の中ですが。」
「それでも、少し安心します。」
「そうですか。」
クリス殿下が微笑む。
「今日は、ずっと私が一緒にいます。」
「ありがとうございます。」
私は笑った。
その時。
遠くから騎士が走ってきた。
「殿下!」
「どうしました?」
「大変です。」
騎士が息を整える。
「花屋から連絡がありました。」
「花屋?」
「はい。」
「何かあったのですか?」
騎士が私を見る。
「……フラン様を探している男が、店の周辺で目撃されたそうです。」
「……!」
クリス殿下の表情が一瞬で変わった。
「すぐに花屋へ向かいます。」
「はい。」
「フラン。」
「はい。」
「今日は絶対に、私から離れないでください。」
「分かりました。」
クリス殿下が私の手を強く握る。
そして。
私たちは急いで花屋へ向かった。
しかし。
この時すでに。
犯人の計画は、動き始めていた。




