第五十一話 動き出した影
翌日。
花屋の前には、昨日と同じように二人の騎士が立っていた。
「おはようございます。」
「おはようございます、フラン様。」
私は少しだけ苦笑する。
「本当にずっと護衛してくださるんですね。」
「殿下からの命令ですので。」
「……殿下らしいですね。」
店の中へ入る。
いつもと変わらない朝。
花を並べて。
水を替えて。
お客さんに花を渡す。
けれど。
昨日までとは違う。
店の外には騎士がいる。
それだけで、少し落ち着かなかった。
◇ ◇ ◇
昼頃。
一人の女性が店に入ってきた。
「いらっしゃいませ。」
「白い花を一輪いただけますか?」
「はい。少々お待ちください。」
私は花を選ぶ。
女性は黙って私を見ていた。
「こちらでよろしいですか?」
「ええ。」
花を包み、女性へ渡す。
「ありがとうございます。」
「ありがとうございました。」
女性が店を出ていく。
その直後。
店の外にいた騎士の一人が、女性を追っていった。
「……?」
「どうしたんでしょう?」
もう一人の騎士が答える。
「念のためです。」
「そうですか。」
私は気にせず仕事へ戻った。
けれど。
しばらくして。
追いかけた騎士が戻ってきた。
「何か分かりましたか?」
「いえ。」
騎士は首を横に振る。
「途中で見失いました。」
「……。」
嫌な感じがした。
◇ ◇ ◇
夕方。
いつもの時間にクリス殿下がやって来た。
「フラン。」
「殿下。」
「今日は何かありませんでしたか?」
「実は……。」
私は昼間のことを話した。
クリス殿下の表情が変わる。
「女性の特徴は?」
「長い茶色の髪で、青いドレスでした。」
「他には?」
「特には……。」
クリス殿下は少し考える。
「分かりました。」
「何か心当たりが?」
「まだありません。」
そう言いながら。
クリス殿下は店の外を見る。
そして。
「今日は王宮へ来てください。」
「え?」
「しばらく、王宮で過ごしてもらいます。」
「でも、仕事が……。」
「花屋には護衛を残します。」
「そういう問題では……。」
「フラン。」
クリス殿下が真剣な顔で私を見る。
「あなたの安全が最優先です。」
「……。」
「お願いします。」
その声に。
私は頷いた。
「分かりました。」
「ありがとうございます。」
クリス殿下が私の手を取る。
その手が、いつもより強く私を握っていた。
◇ ◇ ◇
その夜。
王宮の一室。
私は窓の外を見ていた。
「……王宮にいるのに。」
どうしてだろう。
安心できない。
その時。
コンコン。
扉が叩かれた。
「はい。」
返事をすると。
侍女が入ってきた。
「フラン様。」
「どうしました?」
「こちらを。」
差し出されたのは、一枚の紙だった。
「私に?」
「はい。」
受け取って開く。
そこには。
短い一文だけが書かれていた。
『王宮にいても、逃げられません。』
「……。」
指先が震えた。
誰が。
どうやって。
この手紙を王宮の中まで届けたのか。
その答えが分からないまま。
私は紙を握りしめた。




