第五話 気のせい……じゃない?
翌日。
「いらっしゃいませ。」
カラン、とベルが鳴る。
「こんにちは。」
私は反射的にため息を飲み込んだ。
「こんにちは、クリス殿下。」
もう驚かない。
……いや、驚いてはいるけれど。
今日で六日連続。
さすがに偶然とは思えなくなってきた。
「本日はこちらを。」
クリスは店先に飾られていた淡い桃色の花を指差す。
「こちらはスイートピーです。」
「花言葉は。」
「『門出』や『優しい思い出』ですね。」
「そうですか。」
短く頷く。
そして、いつものように購入した。
私は思い切って尋ねる。
「あの……。」
「はい。」
「殿下は、お花がお好きなんですか?」
「嫌いではありません。」
「そうなんですね。」
「ですが。」
一拍置いて、クリスは続けた。
「最近、詳しくなりました。」
「え?」
「あなたが教えてくださるので。」
思わず言葉を失う。
そんなことを言われるとは思っていなかった。
「ありがとうございます……?」
お礼で合っているのか分からないまま口にすると、クリスは静かに頷いた。
「こちらこそ。」
それだけ言って帰っていく。
私はしばらく店の入口で立ち尽くしていた。
◇ ◇ ◇
夕方。
仕事を終え、母と夕食の支度をしていると、
「フラン、最近何かあったの?」
母がくすっと笑った。
「え?」
「なんだか楽しそう。」
「そ、そんなことないよ!」
「そうかしら?」
私は慌てて首を振る。
「変な王子様がお店に来るだけ!」
「王子様?」
「毎日花を買って帰るの。」
「毎日?」
母の手が止まる。
「……それは、毎日?」
「うん。」
「同じ王子様が?」
「うん。」
母は少し考え込み、
「それは……。」
「それは?」
「花屋が気に入ったのかもしれないわね。」
「そうだよね!」
私は安心したように笑う。
そう。
きっとそれだけ。
花屋がお気に入りになっただけ。
私じゃない。
そう自分に言い聞かせる。
その頃、王城では。
「殿下。」
護衛騎士が静かに口を開いた。
「どうしました。」
「毎日花を購入されていますが、お部屋が花でいっぱいになっております。」
「そうですね。」
「もう置く場所がありません。」
「そうですか。」
「……処分なさいますか?」
クリスは首を横に振った。
「処分はしません。」
「では、なぜ毎日?」
クリスは少しだけ考え、
「花が欲しいからです。」
護衛騎士は心の中で叫ぶ。
(絶対違うでしょう!!)
しかし本人だけは、本気でそう思っていた。




