第四十九話 招かれざる手紙
翌日の朝。
花屋を開けると。
店の前に、一通の封筒が落ちていた。
「……?」
拾い上げる。
白い封筒。
表には、私の名前が書かれていた。
「フラン?」
店主さんが後ろから声をかける。
「何か届いたのかい?」
「はい。でも……誰からでしょう。」
差出人の名前はない。
「開けてみたら?」
「そうですね。」
私は封を開けた。
中には、一枚の紙が入っていた。
『少し、お話ししたいことがあります。
王宮の西側にある庭園まで、一人で来てください。』
「……。」
胸がざわついた。
「どうしたんだい?」
「いえ……。」
私は紙を握りしめる。
「ちょっと呼び出しの手紙が……。」
「誰から?」
「分かりません。」
「それは行かない方がいいんじゃないか?」
店主さんが心配そうに言う。
「そうですよね。」
私は頷いた。
けれど。
手紙の最後に書かれていた言葉が気になった。
『クリス殿下のことで、あなたに伝えておきたいことがあります。』
「……。」
クリス殿下のこと。
それだけで。
無視することができなくなった。
◇ ◇ ◇
昼過ぎ。
いつものように、クリス殿下が花屋へ来た。
「こんにちは。」
「殿下。」
「今日も元気そうですね。」
「はい。」
私は少し迷った。
言うべきだ。
そう思った。
「殿下。」
「はい?」
「今日、こんな手紙が届きました。」
私は手紙を差し出す。
クリス殿下が受け取る。
目を通した瞬間。
表情が変わった。
「……一人で来い、と?」
「はい。」
「行ってはいけません。」
即答だった。
「でも、殿下のことが書いてあって……。」
「それでもです。」
クリス殿下は手紙を折りたたむ。
「誰が書いたのか分からない手紙を信じる必要はありません。」
「……はい。」
「私が調べます。」
「お願いします。」
クリス殿下は私を見る。
「それと。」
「はい?」
「今日は、私と一緒に帰ってください。」
「いつもそうしてくれてますよね。」
「今日は特にです。」
その声は、いつもより少し硬かった。
◇ ◇ ◇
その日の夕方。
店を閉める時間になった。
「では、帰りましょう。」
「はい。」
クリス殿下と並んで店を出る。
馬車へ向かう。
その途中。
私はふと足を止めた。
「……あれ?」
「どうしました?」
少し離れた場所に。
一人の女性が立っていた。
こちらを見ている。
私と目が合った瞬間。
女性はすぐに背を向けた。
「知っている人ですか?」
「分かりません。」
クリス殿下が女性の方を見る。
「……。」
そして。
私の手を強く握った。
「乗ってください。」
「はい。」
馬車に乗り込む。
扉が閉まる。
走り出した馬車の中で。
クリス殿下はしばらく黙っていた。
「殿下?」
「……先ほどの女性。」
「はい。」
「気になっています。」
「私もです。」
クリス殿下は私を見る。
「しばらく、一人で行動しないでください。」
「分かりました。」
「約束してください。」
「はい。」
私は頷いた。
「約束します。」
クリス殿下は少しだけ安心したように息を吐いた。
けれど。
私の手紙を握る手には。
まだ力が入っていた。




