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氷の王子は恋を知ったら止まらない  作者: S@Y@


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第四十六話 婚約者としての初めての朝


 翌朝。


 目を覚ますと。


 昨日の出来事が、夢ではなかったのだと改めて思う。


 クリス殿下と婚約した。


 正式に。


「……。」


 胸が少しだけ高鳴る。


 いつも通り身支度を整え、花屋へ向かった。


 店の扉を開ける。


「おはようございます。」


「おはよう、フラン。」


 店主さんが笑顔で迎えてくれる。


「昨日は大変だったね。」


「はい。」


「王宮で正式に発表されたんだろ?」


「はい。」


「今日から、王子様の婚約者様か。」


「やめてください……。」


 恥ずかしくなって俯く。


「今まで通り、フランでお願いします。」


「もちろんだよ。」


 店主さんが笑う。


「でも、これから忙しくなるかもしれないね。」


「そうなんですか?」


「ああ。王子様の婚約者になったんだから。」


 その言葉に。


 少しだけ不安になる。


 昨日までは、ただ好きな人と一緒にいられることが嬉しかった。


 でも。


 これからは、王子の婚約者として見られる。


 それがどんなものなのか。


 まだ、私には分からない。


 ◇ ◇ ◇


 昼過ぎ。


 店の前に馬車が止まった。


 カラン。


 扉が開く。


「こんにちは。」


「殿下。」


 クリス殿下だった。


「今日も来たんですね。」


「はい。」


「お仕事は?」


「終わらせてきました。」


「早いですね。」


「会いたかったので。」


「……。」


 やっぱり。


 最近、この人は本当に素直すぎる。


「フラン。」


「はい?」


「今日、少し時間をもらえますか?」


「どこかへ行くんですか?」


「はい。」


 クリス殿下が手を差し出す。


「婚約者として、あなたに見てもらいたい場所があります。」


「……分かりました。」


 私は店主さんを見る。


「行っておいで。」


「でも、まだ仕事が……。」


「今日は私がやっておくよ。」


「ありがとうございます。」


 私はエプロンを外した。


 店を出ると。


 クリス殿下が自然に私の手を取る。


「どこへ行くんですか?」


「王宮です。」


「王宮?」


「はい。」


 馬車に乗り込む。


 ◇ ◇ ◇


 王宮へ到着すると。


 いつもの廊下とは違う方向へ案内された。


「こちらです。」


 クリス殿下が扉を開ける。


「……ここは?」


 そこには。


 大きな窓から庭園を見渡せる部屋があった。


 中央には長い机。


 壁際には本棚。


「私の執務室です。」


「執務室……。」


「はい。」


 私は部屋の中を見回す。


「ここでお仕事を?」


「そうです。」


「初めて見ました。」


「今までは、あなたを仕事の場に連れてくる理由がありませんでしたから。」


「今日は?」


 クリス殿下が私を見る。


「婚約者になったので。」


「……。」


「これからは、私のことも少しずつ知ってほしいと思っています。」


 胸が温かくなる。


「嬉しいです。」


「本当ですか?」


「はい。」


 クリス殿下が机の上に置かれていた書類を片付ける。


「少しだけ、ここにいてください。」


「お仕事するんですか?」


「はい。」


「私、邪魔じゃないですか?」


「全く。」


「でも……。」


「むしろ。」


 クリス殿下が椅子に座りながら言う。


「あなたがいる方が、仕事が早く終わる気がします。」


「どうしてですか?」


「早く終わらせて、あなたと一緒にいたいので。」


「……。」


 私は小さく笑った。


「では、静かに待っています。」


「ありがとうございます。」


 クリス殿下が書類に目を落とす。


 私は窓際の椅子に座った。


 静かな執務室。


 紙をめくる音だけが響く。


 不思議だった。


 今まで知らなかった。


 クリス殿下が王子として過ごしている時間。


 その一部を。


 今日、初めて見せてもらっている。


 そして私は。


 その隣にいる。


 それだけのことが。


 とても嬉しかった。

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