第四十三話 婚約者になった日
国王陛下との話を終え、私たちは謁見の間を出た。
扉が閉まる。
しばらく、どちらも何も言わなかった。
「……。」
「……。」
私は隣を歩くクリス殿下を見る。
「殿下。」
「はい。」
「本当に……婚約するんですね。」
「はい。」
迷いのない返事だった。
「嬉しいですか?」
「とても。」
クリス殿下が私を見る。
「フランは?」
「私も……嬉しいです。」
そう答えると。
クリス殿下の表情が柔らかくなった。
「良かった。」
「でも。」
「はい?」
「これから大変ですよね。」
私は少し不安になる。
「私は男爵令嬢ですし、殿下には他にも婚約者候補がいましたよね。」
「いました。」
「……。」
「ですが、もう関係ありません。」
「どうしてですか?」
「私が選んだのは、フランだからです。」
胸が熱くなる。
「それに。」
クリス殿下が私の手を取った。
「父上も認めてくださいました。」
「……はい。」
「これからは、誰に何を言われても、あなたを私の婚約者だと言えます。」
「殿下……。」
「私は、それが嬉しいです。」
その時。
「兄上?」
前方から声がした。
「レオン殿下。」
弟のレオン殿下がこちらへ歩いてくる。
「こんなところで何してるの?」
「父上と話をしていました。」
「なるほど。」
レオン殿下が私たちを交互に見る。
そして。
「……なんか、二人とも嬉しそうだね。」
「分かりますか?」
「分かるよ。」
レオン殿下が笑う。
「特に兄上が。」
「……。」
クリス殿下は何も言わない。
「何かあった?」
クリス殿下が私を見る。
少しだけ目を細めた。
「はい。」
「え?」
「婚約が決まりました。」
「えっ!?」
レオン殿下が目を丸くする。
「本当に!?」
「はい。」
「フラン嬢と?」
「そうです。」
「おめでとう!」
レオン殿下が嬉しそうに笑う。
「兄上、良かったね!」
「ありがとうございます。」
「父上も認めたんだ?」
「はい。」
「そっか……。」
レオン殿下は私を見る。
「フラン嬢。」
「はい。」
「これから兄上と一緒に大変なこともあると思うけど。」
一度、クリス殿下を見る。
「兄上、かなりフラン嬢のこと大切にしてるから。」
「……。」
「きっと大丈夫だよ。」
「ありがとうございます。」
私は笑って頷いた。
すると。
「レオン。」
「ん?」
「余計なことは言わないでください。」
「えー。」
レオン殿下が笑う。
「本当のことじゃない。」
「……。」
クリス殿下は少し困ったような顔をする。
そんな姿がおかしくて。
「ふふっ。」
私は思わず笑った。
クリス殿下が私を見る。
「何ですか?」
「いえ。」
私は首を横に振る。
「嬉しいなと思って。」
「……。」
「こうして、殿下の弟さんにも祝ってもらえて。」
クリス殿下の表情が柔らかくなる。
「私も嬉しいです。」
「兄上。」
レオン殿下が笑う。
「顔がすごく嬉しそう。」
「……レオン。」
「はいはい。邪魔しないよ。」
レオン殿下は手を振る。
「二人でゆっくり話しておいで。」
「ありがとうございます。」
レオン殿下が去っていく。
その背中を見送ってから。
私はクリス殿下を見る。
「殿下。」
「はい。」
「これからも、ずっと一緒にいてくださいね。」
「もちろんです。」
クリス殿下が私の手を握る。
「私の方こそ、お願いします。」
「はい。」
私は笑った。
今日。
私たちは恋人から、婚約者になった。
これから先。
きっと、今までとは違うこともたくさん待っている。
それでも。
この人となら。
一緒に進んでいける。
そんな気がした。




