第四十二話 陛下からの言葉
国王陛下は、私とクリス殿下を前にして静かに口を開いた。
「クリス。」
「はい。」
「お前は、フラン嬢との婚約を望んでいるか?」
「……。」
私は息を呑んだ。
婚約。
その言葉を聞いた瞬間、心臓が大きく跳ねる。
クリス殿下は迷わなかった。
「はい。」
「……殿下。」
思わず隣を見る。
クリス殿下は真っ直ぐ陛下を見ていた。
「私は、フランとの婚約を望んでいます。」
「そうか。」
陛下は頷いた。
「では、フラン嬢。」
「は、はい。」
「お前はどうだ?」
「私……。」
言葉が詰まる。
頭の中に、これまでのことが浮かんだ。
初めて花屋に来た日。
毎日のように会いに来てくれたこと。
街へ連れて行ってくれたこと。
夜会で守ってくれたこと。
危険な目に遭った時、必死に助けてくれたこと。
そして。
昨日、想いを伝え合ったこと。
私はクリス殿下を見る。
すると。
彼も私を見ていた。
「……はい。」
私は小さく頷いた。
「私も、殿下との婚約を望みます。」
「フラン。」
クリス殿下の声が少し震えた。
「本当に?」
「はい。」
私は笑う。
「私も、殿下と一緒にいたいです。」
クリス殿下が目を伏せる。
そして。
「ありがとうございます。」
静かな声だった。
けれど、その表情は隠しきれないほど嬉しそうだった。
「決まりだな。」
陛下が笑う。
「正式な婚約については、両家との話し合いが必要になる。」
「分かりました。」
「それと。」
陛下が私を見る。
「フラン嬢。」
「はい。」
「これから、お前は今まで以上に注目されることになる。」
「……。」
胸が少しだけ緊張する。
「クリスの婚約者となれば、王宮の貴族たちも黙ってはいないだろう。」
「分かっています。」
私は答えた。
怖くないと言えば嘘になる。
でも。
隣を見る。
クリス殿下が私の手をそっと握ってくれた。
「私がいます。」
「……。」
「何があっても、あなたを一人にはしません。」
その言葉に。
私は頷いた。
「はい。」
陛下はそんな私たちを見て、穏やかに笑った。
「ならば、二人で乗り越えなさい。」
「はい。」
クリス殿下が答える。
私も頷いた。
こうして。
私たちは恋人から。
正式な婚約者へ向かって、一歩を踏み出すことになった。




