第四十話 初めての贈り物
翌朝。
花屋の扉が開いた。
カラン。
「いらっしゃいませ。」
顔を上げる。
「おはようございます。」
「……殿下?」
やっぱり。
クリス殿下だった。
「おはようございます。」
「今日は早いですね。」
「はい。」
クリス殿下は店の中へ入ってくる。
そして。
私の前で足を止めた。
「フラン。」
「はい?」
「これを。」
差し出されたのは、小さな箱だった。
「……私に?」
「はい。」
「開けてもいいですか?」
「もちろんです。」
私は箱を受け取る。
蓋を開けると。
「わ……。」
中には、細い銀色のブレスレットが入っていた。
小さな花の飾りが一つだけついている。
「綺麗……。」
「昨日、庭で見た花に似たものを選びました。」
「……。」
昨日のことを覚えていたんだ。
「これを、私に?」
「はい。」
「どうして?」
クリス殿下は少しだけ目を伏せる。
「恋人になって、最初の贈り物です。」
「……。」
胸が温かくなる。
「嬉しいです。」
「本当ですか?」
「はい。」
「良かった。」
クリス殿下がほっとしたように息を吐いた。
「つけてもいいですか?」
「はい。」
私は腕を差し出す。
クリス殿下がそっとブレスレットをつけてくれる。
「……。」
手首で銀色の花が揺れる。
「似合っています。」
「ありがとうございます。」
「毎日つけてください。」
「え?」
「嫌ですか?」
「そうじゃなくて。」
私は少し笑う。
「大切にします。」
「……はい。」
クリス殿下は嬉しそうに頷いた。
◇ ◇ ◇
その時。
店の扉が開いた。
「フラン、お客さん――」
店主さんが途中で止まる。
「……。」
私の手首を見る。
そして。
「なるほど。」
「何ですか?」
「いやいや。」
店主さんはニヤニヤしながら言う。
「朝から仲がいいことで。」
「……。」
顔が熱くなる。
「殿下、仕事の邪魔にならないようにな。」
「はい。」
クリス殿下は素直に頷く。
そして私を見る。
「では、私は行きます。」
「はい。」
「仕事が終わる頃に迎えに来ます。」
「分かりました。」
クリス殿下が店を出ていく。
扉が閉まる。
カラン。
「……。」
静かになった店内で。
私はもう一度、手首を見る。
「……嬉しいな。」
思わず呟く。
すると。
「聞こえたぞ。」
「えっ!?」
店主さんが笑っている。
「よかったな、フラン。」
「……はい。」
私はブレスレットをそっと撫でた。
◇ ◇ ◇
その日の夕方。
いつものようにクリス殿下が迎えに来た。
「お疲れさまでした。」
「お疲れさまです。」
店を出る。
すると。
クリス殿下が私の手首を見た。
「つけてくれたんですね。」
「はい。」
「嬉しいです。」
「そんなにですか?」
「はい。」
クリス殿下は私の手を取る。
「とても。」
そのまま並んで歩く。
以前なら。
こんなふうに手を繋いで歩くなんて、考えもしなかった。
でも今は。
その温かさが、当たり前になりつつある。
「殿下。」
「はい。」
「これからも、こうして一緒にいられますか?」
クリス殿下は立ち止まった。
「もちろんです。」
そして。
私の手を優しく握り直す。
「私は、そのつもりです。」
その言葉が。
なぜか、とても嬉しかった。




