第三十七話 恋人になった翌日
翌朝。
私はいつもより早く目を覚ました。
「……。」
昨日のことを思い出す。
クリス殿下と想いが通じた。
そして。
初めてキスをした。
「……恥ずかしい。」
枕に顔を埋める。
昨日は普通に話せていたはずなのに。
今になって思い出すと、顔が熱くなる。
「今日、どんな顔で会えばいいの……。」
そんなことを考えながら支度をする。
そして。
家の扉を開けた。
「おはようございます。」
「……!」
そこに。
クリス殿下がいた。
「殿下!?」
「おはようございます。」
「早いですね……。」
「はい。」
「もしかして、ずっと待っていたんですか?」
「少し前から。」
「……。」
昨日までと何も変わらない。
いつものクリス殿下。
けれど。
私は昨日のことを知っている。
それだけで、妙に意識してしまう。
「フラン。」
「はい。」
「顔が赤いです。」
「……!」
「熱がありますか?」
「ありません!」
「そうですか。」
クリス殿下は納得したように頷く。
そして。
「私も少し緊張しています。」
「え?」
「昨日のことを思い出しているので。」
「……!」
私の顔がさらに熱くなる。
「殿下!」
「はい。」
「朝から言わないでください!」
「なぜですか?」
「恥ずかしいからです!」
「分かりました。」
クリス殿下は頷く。
……と思ったのに。
「では、花屋に着いてから言います。」
「そういう問題じゃありません!」
思わず声を上げる。
クリス殿下は。
ほんの少しだけ笑った。
「冗談です。」
「……。」
この人。
最近、少しずつ冗談を言うようになってきた。
それも。
私をからかうために。
「殿下、変わりましたね。」
「そうですか?」
「はい。」
「フランのおかげかもしれません。」
「……。」
まただ。
こういうことを平然と言う。
◇ ◇ ◇
花屋へ向かって歩いていると。
昨日の事件のことを思い出した。
「殿下。」
「はい。」
「昨日の人は、どうなったんですか?」
「騎士たちが調べています。」
「何者だったんでしょう。」
「まだ分かっていません。」
クリス殿下の表情が少し険しくなる。
「ですが。」
「はい。」
「二度とフランに近づけるつもりはありません。」
「……。」
「私が必ず守ります。」
その言葉に。
私は少しだけ胸が痛くなった。
「殿下。」
「はい。」
「私も、自分で気をつけます。」
「それだけでは足りません。」
「え?」
「昨日のようなことが起きたら。」
クリス殿下は私を見る。
「あなたが無事でいられる保証はありません。」
「……。」
「だから。」
繋いだ手を、そっと握る。
「これからは私にも頼ってください。」
「はい。」
私は頷いた。
「分かりました。」
◇ ◇ ◇
花屋の前に着く。
「では、私はこれで。」
「はい。」
クリス殿下が離れようとする。
その時。
「殿下。」
「はい?」
私は思わず呼び止めた。
「……。」
「どうしました?」
「その……。」
言葉にするのが恥ずかしい。
でも。
「今日も、来てくれて嬉しかったです。」
クリス殿下が目を見開く。
「……。」
「では、行ってきます。」
私は急いで店の中へ入ろうとした。
すると。
「フラン。」
「はい?」
振り返る。
「私も。」
クリス殿下は静かに言った。
「あなたに会えて、嬉しかったです。」
そして。
ほんの少しだけ笑った。
「では、また後で。」
「……はい。」
扉を閉めた後。
私は胸を押さえた。
「もう……。」
恋人になった翌日。
私は昨日より。
もっとクリス殿下を好きになっている気がした。




