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氷の王子は恋を知ったら止まらない  作者: S@Y@


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第二十九話 迎えに来た王子様


 夕方。


 花屋の扉についたベルが鳴った。


 カラン。


「いらっしゃいませ……。」


 いつものように声をかける。


 そして。


 私は固まった。


「こんにちは。」


 そこにいたのは。


 見慣れた黒髪の王子様。


「……殿下。」


「はい。」


 クリス殿下はいつも通り無表情だった。


 まるで。


 ここが王宮でも、下町の小さな花屋でも関係ないと言うように。


「本当に来たんですね。」


「約束しました。」


「でも、冗談かもしれないと思っていました。」


「なぜですか。」


「王子様が毎日迎えに来るなんて、普通は思いません。」


 クリス殿下は少し考える。


「そうでしょうか。」


「そうです。」


「私は普通ではないのでしょうか。」


「そこを自分で言いますか?」


 思わず笑ってしまう。


 店主さんが奥から顔を出した。


「おや、殿下。」


「こんばんは。」


 クリス殿下は丁寧に頭を下げる。


「フランを迎えに?」


「はい。」


 迷いなく答える。


 店主さんは私を見る。


「フラン。」


「はい?」


「大変な人に好かれたねぇ。」


「……。」


 否定できない。


 ◇ ◇ ◇


「では、失礼します。」


 仕事を終え、私は店主さんに挨拶をする。


「気をつけてね。」


「はい。」


 外に出ると。


 すでに馬車が用意されていた。


「え?」


「乗ってください。」


 クリス殿下が扉を開ける。


「歩いて帰れますよ?」


「知っています。」


「では、なぜ馬車を?」


「今日は。」


 一拍。


「少し遠回りしたいので。」


「遠回り?」


「はい。」


「どこへ行くんですか?」


「秘密です。」


 珍しい。


 少しだけいたずらのような響きがあった。


「殿下。」


「はい。」


「今、少し楽しそうでしたね。」


 クリス殿下は黙る。


「……。」


「違いますか?」


「違いません。」


 素直すぎて困る。


 ◇ ◇ ◇


 馬車が止まった場所。


 そこは王都を一望できる小高い丘だった。


「ここ……。」


「以前、兄上に教えてもらいました。」


「レオン殿下が?」


「はい。」


 クリス殿下は夜景を見る。


「静かで、人が少ない場所です。」


「だからですか?」


「はい。」


 そして。


「フランと話すには、ちょうどいいと思いました。」


 胸が温かくなる。


 ◇ ◇ ◇


「フラン。」


「はい。」


「昨日の返事。」


 心臓が跳ねる。


「急がなくていいと言いました。」


「……。」


「ですが。」


 クリス殿下は真っ直ぐ私を見る。


「私は、待つつもりはありません。」


「え?」


「諦めるつもりがない、という意味です。」


「……。」


 相変わらず。


 言葉が強い。


 でも。


 不思議と怖くない。


「フランが私を好きになるまで。」


 静かな声。


「私は、何度でも伝えます。」


 その瞳には迷いがなかった。


「あなたが好きです。」


 夜景の中。


 氷の王子は。


 今日も真っ直ぐに私へ想いを向けていた。

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