第二十八話 王子様の休日
「じゃあ、俺は失礼するよ。」
レオン殿下がそう言って手を振る。
「兄上。」
「はい。」
「ちゃんと送ってあげてね。」
「言われなくてもそうします。」
クリス殿下は即答した。
「うわ……。」
レオン殿下が苦笑する。
「本当に変わったね、兄上。」
「そうでしょうか。」
「そうだよ。」
レオン殿下は楽しそうに笑いながら、王宮へ戻っていった。
◇ ◇ ◇
私とクリス殿下は、再び歩き始める。
朝の王都。
市場へ向かう人々の声が響いている。
「レオン殿下とは仲が良いんですね。」
私が言うと、クリス殿下は少し頷いた。
「はい。」
「意外でした。」
「なぜですか?」
「殿下は、あまり人と関わらない方だと思っていたので。」
クリス殿下は少し考える。
「以前は、そうでした。」
「以前?」
「必要なこと以外、話すことはありませんでした。」
静かな声。
「ですが。」
クリス殿下は私を見る。
「今は違います。」
「……。」
「フランと話す時間は、必要がなくても欲しいと思います。」
胸が温かくなる。
「殿下。」
「はい。」
「最近、そういうことを普通に言うようになりましたよね。」
「そうですか?」
「はい。」
「以前は思っていても、伝える必要がないと思っていました。」
「……。」
「ですが。」
一拍。
「フランには、伝えたいと思います。」
まただ。
この人は。
真顔で、恥ずかしいことを言う。
◇ ◇ ◇
しばらく歩くと、花屋が見えてきた。
「送ってくださって、ありがとうございました。」
私は頭を下げる。
「はい。」
クリス殿下は店を見る。
「今日は、仕事ですか。」
「はい。」
私は頷く。
「いつも通り働きます。」
「そうですか。」
クリス殿下は少し黙った。
「……。」
「殿下?」
「フラン。」
「はい。」
「今日の仕事が終わった後。」
一拍。
「時間はありますか。」
「え?」
「少し、一緒に過ごしたいです。」
驚いて目を瞬かせる。
「でも、殿下はお忙しいのでは?」
「はい。」
即答だった。
「忙しいです。」
「なら……。」
「ですが。」
クリス殿下は続ける。
「時間を作りました。」
「……。」
「フランに会う時間を。」
胸が高鳴る。
「殿下。」
「はい。」
「そういうことを、真顔で言わないでください。」
「なぜですか。」
「恥ずかしいからです。」
「そうでしたか。」
クリス殿下は真剣に頷く。
「覚えておきます。」
「本当に分かっていますか?」
「はい。」
「では、今日は仕事が終わったら……。」
「迎えに来ます。」
「え?」
「花屋の前で待っています。」
「またですか?」
「はい。」
「殿下が毎日来ていることは知っていますけど……。」
「……。」
クリス殿下が少し黙る。
「フラン。」
「はい?」
「その話は、まだ秘密でお願いします。」
「もうレオン殿下も知っていましたよ?」
「……。」
珍しく。
クリス殿下が困ったような顔をした。
「兄上は隠しているつもりだったんだよ。」
少し離れた場所から声がする。
「レオン殿下!?」
戻ってきていたらしい。
「じゃあね、兄上。」
レオン殿下は笑いながら手を振る。
「俺は今度こそ帰るから。」
「……はい。」
クリス殿下は静かに頷く。
私は思わず笑ってしまった。
氷の王子。
でも。
好きな人の前では。
少しだけ分かりやすい人なのかもしれない。




