第二十六話 朝のお迎え
翌朝。
私はいつも通り身支度を整え、家を出た。
「昨日はいろいろありすぎたなぁ……。」
夜会。
ダンス。
告白。
そして。
『私の婚約者になってください。』
「うぅ……。」
思い出しただけで顔が熱くなる。
私は両手で頬を押さえながら歩き始めた。
「おはようございます。」
「きゃっ!」
突然聞こえた声に飛び上がる。
「お、おはようございます……。」
顔を上げると、クリス殿下が立っていた。
「殿下!?」
「はい。」
「どうしてここに!?」
「迎えに来ました。」
まるで当然のように答える。
「迎え?」
「はい。」
「花屋までです。」
「花屋までですか!?」
「はい。」
私は思わず額に手を当てた。
「殿下。」
「はい。」
「花屋まで歩いて十分くらいですよ?」
「承知しています。」
「そんな近いのに迎えはいりません!」
「そうでしょうか。」
クリス殿下は少し考える。
「必要です。」
「どうしてですか?」
「会いたかったので。」
「…………。」
朝から心臓に悪い。
「殿下。」
「はい。」
「そういうことを真顔で言わないでください。」
「なぜですか。」
「恥ずかしいからです!」
「そうでしたか。」
クリス殿下は真剣に頷く。
「勉強になります。」
「本当に分かってます?」
「はい。」
「ですが。」
一拍置く。
「会いたかったのは事実です。」
「~~っ!」
もう反論できない。
「では。」
クリス殿下が歩き出す。
「参りましょう。」
「……はい。」
私は小さくため息をつき、その隣を歩き始めた。
◇ ◇ ◇
朝の王都。
市場へ向かう人々が行き交う。
そんな中を、私たちは並んで歩いていた。
「見て。」
「あれ、第一王子殿下じゃない?」
「隣の女性は誰?」
周囲がざわつき始める。
「うぅ……。」
私は思わず肩をすくめた。
「フラン。」
「はい。」
「気にしなくて大丈夫です。」
「でも……。」
「私は気にしていません。」
クリス殿下はいつも通り堂々と歩いている。
その姿を見ていると、不思議と少しだけ勇気が湧いてきた。
その時だった。
「兄上ー!」
元気な声が後ろから響く。
振り返ると、一人の青年が笑顔で駆け寄ってくる。
「やっぱり兄上だった!」
クリス殿下は小さく息をついた。
「……レオン。」
「おはよう!」
青年は私を見ると、ぱちぱちと瞬きをした。
「えっ。」
「その人って……。」
クリス殿下は静かに紹介する。
「フランです。」
「初めまして!」
青年はにこりと笑って頭を下げた。
「俺は第二王子のレオン!」
「よ、よろしくお願いいたします。」
慌てて頭を下げる。
するとレオン殿下は、クリス殿下と私の顔を交互に見て、にやりと笑った。
「へぇ。」
「兄上が毎日出かける理由って、この人だったんだ。」
「……。」
私は固まる。
「毎日?」
ゆっくりクリス殿下を見る。
「殿下。」
「はい。」
「王宮では有名だったんですか?」
クリス殿下は少し考えた。
「……知りませんでした。」
その隣で。
「兄上、全然隠せてなかったよ!」
レオン殿下が声を上げて笑った。




