第二十三話 氷の王子の怒り
会場の空気が変わった。
クリス殿下は、いつものように静かに立っている。
けれど。
誰もが感じていた。
怒っている。
そう分かるほどに。
「殿下。」
一人の令嬢が慌てて頭を下げる。
「何か誤解がございます。」
「誤解。」
クリス殿下が淡々と繰り返す。
「では、説明してください。」
「私たちはただ……。」
令嬢は言葉を選ぶ。
「フラン様が困らないよう、忠告をしていただけです。」
「忠告。」
「はい。」
「彼女に、身の程を知れと言うことがですか。」
令嬢たちの表情が固まる。
「……。」
返事はない。
「聞いています。」
クリス殿下の声が少し低くなる。
「彼女に何と言ったのですか。」
「それは……。」
「答えてください。」
静かな声。
なのに。
逆らうことを許さない響きだった。
「……身分の差を考えるように、と。」
令嬢が小さく答える。
「そうですか。」
クリス殿下は頷く。
「では、私からも伝えます。」
会場中の視線が集まる。
「フランの身分について、あなた方が口を出す必要はありません。」
はっきりとした言葉。
「彼女を招待したのは私です。」
クリス殿下は続ける。
「彼女に隣にいてほしいと思ったのも私です。」
胸が大きく跳ねる。
「それを否定する権利は、誰にもありません。」
誰も何も言えない。
「ですが、殿下。」
別の令嬢が口を挟む。
「王族には相応しい相手というものが……。」
「相応しい?」
クリス殿下が初めて言葉を強くした。
「何を基準にしていますか。」
「え……。」
「家柄ですか。」
沈黙。
「財産ですか。」
さらに沈黙。
「それとも。」
クリス殿下はフランを見る。
「人を思いやる心より、身分の方が大切だと考えているのですか。」
令嬢たちは言葉を失う。
「私は。」
クリス殿下が続ける。
「フランの優しさを知っています。」
「……。」
「困っている人を放っておけないところも。」
「誰に対しても真っ直ぐ接するところも。」
その言葉に、私は目を見開く。
そんなところまで。
見ていてくれたのだろうか。
「私は、そういう彼女を尊敬しています。」
会場が静まり返る。
「ですから。」
クリス殿下の視線が令嬢たちへ向く。
「二度と、彼女を傷つけるような言葉を口にしないでください。」
冷たい声。
「次は許しません。」
その一言で。
空気が完全に凍った。
◇ ◇ ◇
令嬢たちが去ったあと。
私は何も言えずにいた。
「フラン。」
「……はい。」
「怖かったですか。」
突然の問いに驚く。
「え?」
「嫌な思いをしましたか。」
私は首を振る。
「大丈夫です。」
そう答えたけれど。
クリス殿下は少しだけ眉を寄せた。
「大丈夫ではない顔をしています。」
「……。」
図星だった。
「すみません。」
「なぜ謝るのですか。」
「私のせいで、殿下が怒ってしまったので。」
すると。
「違います。」
すぐに否定された。
「私は。」
一拍。
「あなたが傷ついたことに、怒っています。」
その言葉に。
胸が大きく鳴った。




