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氷の王子は恋を知ったら止まらない  作者: S@Y@


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第二十話 氷の王子の怒り


 会場の空気が、少しだけ重くなる。


 クリス殿下の言葉は静かだった。


 けれど。


 誰もが、その奥にある感情を感じ取っていた。


「失礼いたしました。」


 先ほどの令嬢は頭を下げる。


「ただ、少し驚いてしまっただけです。」


「何にですか。」


 クリス殿下が問い返す。


「殿下が、女性を夜会へお連れになることに。」


 令嬢は微笑む。


「今まで、そのようなことは一度もありませんでしたから。」


 周囲の貴族たちも、静かにこちらを見る。


 無理もない。


 クリス殿下は今まで、誰か特定の令嬢と親しくすることなどなかった。


 だから。


 私が隣にいることが、珍しいのだ。


「フラン嬢。」


 別の令嬢が声をかけてくる。


「このような場所は初めてでしょう?」


「はい。」


 私は正直に答える。


「そうですか。」


 その令嬢は微笑む。


「緊張されるのも無理はありませんわ。」


 優しい言葉。


 ……のはずなのに。


「ですが、王宮の夜会では最低限の振る舞いが求められます。」


 胸に小さな棘が刺さる。


「貴族の方々に恥をかかせないよう、気をつけられた方がよろしいかと。」


「……。」


 私は言葉に詰まる。


 確かに。


 私は何も知らない。


 作法も。


 会話の仕方も。


「忠告ありがとうございます。」


 そう答えるのが精一杯だった。


 すると。


「フラン。」


 クリス殿下の声。


「はい。」


「あなたは何も気にする必要はありません。」


「でも……。」


「あなたは、何も間違えていません。」


 迷いのない言葉。


 その瞬間。


 周囲の空気が変わった。


「殿下。」


 令嬢が少し困ったように笑う。


「ですが、夜会というものは……。」


「知っています。」


 クリス殿下が遮る。


「だからこそ言っています。」


 いつもの淡々とした声。


 でも。


 少しだけ冷たい。


「フランを評価するのは、私です。」


 その場にいた全員が息を止めた。


「彼女を招待したのは私です。」


「彼女に隣にいてほしいと思ったのも、私です。」


 心臓が大きく跳ねる。


「ですから。」


 クリス殿下は令嬢たちを見る。


「彼女を困らせるような言葉は、控えてください。」


 静かな声。


 なのに。


 誰も反論できなかった。


 ◇ ◇ ◇


「……すみません。」


 少し離れた場所へ移動してから、私は小さく謝った。


「私のせいで、殿下が……。」


「フラン。」


 名前を呼ばれる。


「あなたのせいではありません。」


「でも。」


「私は、事実を言っただけです。」


 いつもの真顔。


「フランが悪くないことを、悪くないと言っただけです。」


 その言葉に、胸が熱くなる。


 この人は。


 本当に不器用だけど。


 誰よりも真っ直ぐだ。


「……ありがとうございます。」


「はい。」


 少し沈黙が流れる。


 その時。


 会場に音楽が響いた。


「次の曲が始まります。」


 周囲の貴族たちが中央へ向かう。


 そして。


 クリス殿下が、私へ手を差し出した。


「フラン。」


「はい。」


「踊っていただけますか。」


 私は目を見開く。


「え……?」


「ダンスを。」


 まっすぐな瞳。


「あなたと踊りたいです。」


 氷の王子と呼ばれる人が。


 私に手を差し出している。


 断れるはずがなかった。

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