第十五話 王宮からの招待
王城。
「殿下、本日の予定です。」
護衛騎士アレンが手帳を開く。
「午前は政務、午後は騎士団の視察。」
「はい。」
「そして三日後は、春の夜会がございます。」
「春の夜会。」
クリスは静かに頷いた。
毎年開かれる王宮の大規模な夜会。
貴族たちが一堂に会し、交流を深める社交の場だ。
「各貴族家への招待状も、すでに発送済みです。」
「……。」
クリスはしばらく考え込む。
「アレン。」
「はい。」
「追加で一通、招待状を。」
「どちらのお家へでしょう。」
「男爵家です。」
アレンは羽ペンを持ったまま待つ。
「フラン・ローゼル。」
「……はい?」
「彼女を夜会へ招待します。」
アレンの手が止まった。
「殿下。」
「何でしょう。」
「フラン嬢は、現在は下町で花屋に勤めておられます。」
「知っています。」
「夜会へ出席されるような生活ではありません。」
「承知しています。」
「貴族令嬢方の視線も厳しいかと……。」
「だからです。」
クリスは迷いなく答えた。
「だから?」
「私が隣にいます。」
「…………。」
アレンは頭を抱えた。
(そこじゃないんです、問題は。)
「招待状を用意してください。」
「……かしこまりました。」
◇ ◇ ◇
その日の午後。
クリスはいつものように花屋を訪れていた。
カラン。
「こんにちは。」
「いらっしゃいませ、クリス殿下。」
フランは笑顔で迎える。
「今日は白いユリをお願いします。」
「かしこまりました。」
花を束ねながら、フランが尋ねる。
「今日はお仕事帰りですか?」
「はい。」
「お疲れさまです。」
その一言だけで、クリスの心は少し軽くなる。
「フラン。」
「はい?」
「三日後、お時間はございますか。」
「三日後ですか?」
少し考えてから頷く。
「夕方なら大丈夫です。」
「そうですか。」
クリスは懐から一通の封筒を取り出した。
「こちらを。」
「……招待状?」
受け取った封筒には、王家の紋章が刻まれている。
嫌な予感しかしない。
恐る恐る中を開く。
『春の夜会へご招待いたします』
「…………。」
私は固まった。
もう一度読む。
やっぱり。
夜会だった。
「殿下。」
「はい。」
「これ、私にですか?」
「はい。」
「間違ってません?」
「間違っていません。」
「私、没落男爵家ですよ?」
「知っています。」
「花屋で働いてますよ?」
「知っています。」
「王宮の夜会ですよ?」
「はい。」
全部分かっている顔だった。
「……無理です。」
私は即答した。
「行けません。」
クリスは少しだけ考える。
「理由を伺ってもよろしいでしょうか。」
「理由しかありません!」
私は招待状を両手で握りしめる。
「場違いです。」
「そんなことはありません。」
「あります!」
「ありません。」
真顔で否定される。
「貴族の皆さんに笑われます。」
「笑わせません。」
「え?」
「私がいます。」
あまりにも真っ直ぐな言葉だった。
私は思わず息をのむ。
「ですから。」
クリスは静かに続ける。
「来ていただけませんか。」
断ろうと思っていたはずなのに。
その言葉を聞いた途端、返事ができなくなってしまった。




