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相談屋の日常‐闇夜で嗤う青年の話 その陸‐

 あいつがいつ彼と出会って、その結果どうなったなんてことを知ることは、この上なく興味ない。ただあの頃のあたしは、あいつの惨めな人生を知ることで悦に浸りたかっただけなのかもしれない。そうではなかったら、あんなに他人の生きた様を知って楽しそうに笑ってなどいなかったはずだ。子供(ガキ)だな、と思う。十二歳のガキが何言ってんだって話だけれど、そう思わずにはいられない。十代までの一歳の違いは大きいとよくいわれる。今よく考えみると、あいつは別に惨めな人生を送っていた訳ではなく、あたし自身が勝手にそう決め付けていただけだった。客観的にみればやはりそうなのだが、あいつ自身は彼と出会って世界が広がり成長した。執着ができるほどの存在を得た。字面は大変きれいだな、と苦笑してしまう。他にもいろいろあるだろうが、それら全てあいつにとっては掛替えのないものであるのは確かだろう。そうでなかったら、あいつは今この家にはいない。あたしはいったい、この先何ができるのだろうか。あいつのことは知っている。けれど、彼のことは知らない。彼がどう生まれ、どう生き、今の奇妙な立ち位置にいるのか。見当もつかない。こんなにぐだぐだ考えているが、案外答えは単純なのかもれない。しかし、クリビアの前の彼を知っているあたしには難しそうだ。そう、痛感する。

「何ができるのかな……」

 頭がパンクしそうで、心の声が思わずこぼれてしまった。そんなことしたって何も変わらないのに。阿呆らしい。

 ぼけえ、と考え事をしていたらこちらに近づく気配を感じた。気配のほうへ意識を向けると、そこには心配そうでいて穏やかに微笑んでいるりんちゃんがいた。

「…りんちゃん?」

「ユキちゃん、そう難しく考えなくていいんだよ。ユキちゃんはユキちゃんだから。ユキちゃんが果たしてどんなことを抱えていて、さっきみたいに苛立ってしまったのかは私にはわからない。けどね、それでいいと私は思うの。変に押さえ込んで、上辺だけやっているのを見るのは悲しいから。言葉は可笑しいけど、ユキちゃんがカラサ君相手に感情的になっているの見て、うれしく思う。だって、ユキちゃん、私相手に、喜びでも、悲しみでも、苛立ちでも、何でもいいけど感情的に何か言うことって、ないよね」

「……」

 絶句。りんちゃんの言葉が、最後の言葉を発した時のりんちゃんの表情が、頭を鈍器で殴られたような錯覚を齎した。そんなことない。そんなことないよ。りんちゃんのおかげであたしは、あたしは―――――…!!!

「っりんちゃん……!!」

「もう、ユキちゃんそんな顔しないで」

 あたしはたぶん、すごく必死な顔をしていたんだと思う。りんちゃんは眉を下げ、困った顔をしていた。あたしはなんて言ったらいいのかな?何か言わなくきゃ。さっき思ったことを言えばいいのかな。けど、そんなこと言っていいの、あたしが。“あたし”が。ねえ?いやだな。あの殺人鬼野郎のせいで、気持ちのコントロールがうまくできなくなってる。りんちゃんにもバレて…………


 あれ?

バレちゃいけないこと?

りんちゃんに、あたしの感情はバレてはいけない事なの?


『……だって、ユキちゃん、私相手に、喜びでも、悲しみでも、苛立ちでも、何でもいいけど感情的に何か言うことって、ないよね』


 あ……

 どうしよう。


 ユキの頬に伝うものは何もなかったけれど、りんは静かにユキの頬に手を添えた。

「っ…」

 ユキはそれでやっとりんの存在を思い出したかのように、顔を上げた。

 上げた先には、りんの穏やかな微笑があった。

「ユキちゃん、わたしはさっきも言ったとおりユキちゃんの全ては知らないよ。けど、今ので痛いほどユキちゃんの気持ち、伝わったから」

 そう言うと、りんはまた微笑んだ。

 今度こそ本格的泣きたくなったユキであったが、やはり最後まで流れることはなかった。涙の代わりといってはあれではあるが、ユキの小さな体をこの一時ばかりと温かな人肌が包んでいた。

 もう少しだけ、もう少しだけ。そんなことをユキは叶わぬことと知りながらも、祈っているのだった。



 簡単にどうにかなることではないことは、私も理解している。ましてや、ユキちゃんならなおさらそうだろう。けれど、どうにかしたいと、少しでもわかりたいと思う。それが友達じゃないかな。例え生まれも育ちも違っても、なんとかなるって。その代わり簡単ではないだろうけれど。綺麗ごとと人は笑うかもしれない。それでもこれが私の信念だと称して、やっていきたい。後悔はもうしたくないから。崩れた歯車の行方は知らない。消えたわけでもないのに、まるで消えたように全てが解決した。残ったのはわずかなしこりと疑問だけ。この疑問の答えの見つけ方だって、私にはわからない。

 だけれど………



「大丈夫、私は大丈夫だから」

 そう言って微笑んだ君の眠る姿と、こいつの眠る姿を一瞬でも重ねた俺は、馬鹿だと心底思った。それらは圧倒的に異なるというのに。嗚呼、先を思うと頭が痛いよ。

――――――泣きたいよ××

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