相談屋の日常‐闇夜で嗤う青年の話 その参‐
それはちいさな願いでした。
大切な人たちが苦しんでいるのをみて、少年は何もできずに絶望していました。
どんなに頑張っても変わらぬ現実。
少年はただただ彼らを救うための力を欲しました。
けれど、少年にはそれは大きすぎる願いでした。
彼らは息絶えました。
少年は絶望しました。
そんな少年に手を差し出したのは、冷タイ青年でした。
その青年は少年にチカラを与えました。
それは――――――――――……
カタッ。背後から物音がして、青年はやっとそばまで近づいていた気配に気がついた。殺人鬼を名乗っていて且つそういう事を実際やっている立場なのに、普通の人間相手にここまで鈍くなっていたとは。彼は嘲笑った。
「あっあの……笑わないでよ」
居候の少女は言った。
「…別にあんたに対して笑ったんじゃない」
「そう…か、えっと、そのごめんなさい…」
「別に」
「…あの、風邪引くよ?ソファで寝てたら」
「…寝てねえし、こんなあったかい中で風邪ひくほど軟でもねえ」
「そう、だよ…ね」
「あんた、何しに来たの」
「あっ」
「…」
「ご飯の支度に来たんだった」
「…じゃあ、早くやれば?」
そう言うと、カラサはテレビを付けた。もうりんと話す気はないようだ。
ああ、なんでカラサ君こんな早くリビングにいるのよ。最悪。気まず過ぎる。昨日はユキちゃんもクリビアさんもいたからいいけどさあ。はあ。誰もいないだろうと思って来たら、ソファに寝っ転がって目を閉じてて…………焦ったあ。とっとにかく、今は朝ごはんの支度!そうだよね!!
一通り葛藤を繰り広げると、りんは台所へと足を進めた。カラサはテレビを見ていた。
二人しかいない部屋で物音だけが響く。ふと、りんが食器を出すのに棚の方に向かうと其処には昨日までなかった空瓶が置いてあった。りんは不思議に思い手を伸ばした。
「触るな」
「え?」
今まさにりんが触れようとしていた時、カラサが声をかけた。驚いて声の方へ顔を向けると、りんのすぐ近くにいつの間にかカラサがいた。
「それは、あんたにとって毒だ。触らない方がいい」
そう言うとカラサは瓶を持ち、暗い廊下へと消えて行った。
静寂があたりを再び包んだ。
「……カラサ君って、意外と」
そんな静かな、自分一人になったリビングに、りんの呟きだけ響いた。
暗い廊下、空き瓶を持ってアル者の部屋へと歩く。そして、辿り着いた部屋の扉をカラサは豪快に開け放った。
「…部屋にいないから心配したよ。無事起きれたみたいだね」
突然開け放された扉には気にもせず、部屋の主は妖麗な笑みを浮かべ言った。
「……空き瓶、あった」
カラサはそんな態度に一瞬怯んだがすぐ元の戻り言った。その言葉を受け、その人はさらに笑みを深くした。
「何?飲ましてほしかった?一緒に飲みたかった?それとも…」
「違う!!!!」
カラサにしては珍しく声を荒げた。これにはさすがに笑みを消し、困惑を浮かべた顔で尋ねた。
「…どうしたんだい?」
「…勝手に飲んでいたって構わない。俺はとやかく言える立場ではないから。けどもう少し考えて………これが無造作に置いてあったから、あの人間が触ろうとしていた」
その人は固まった。
「…空き瓶でも、洗っていても、浄化されはしない。それなのに無造作にこれはあった」
「…」
「ねえ、何がしたいの?」
「…」
「大切にしてんじゃないの?」
「…」
「俺より」
「…」
「どうして?」
「…」
「クリビア」
「…」
その人、クリビアはそれきり暫く身動きを一切せず、言葉も発しなかった。彼がその間どんな表情をしていたかなんて、長い前髪に隠されていたため分からない。判らない。




