相談屋の日常‐闇夜で嗤う青年の話 その弐‐
時計の針は二時を回った。“深い夜”まさにそんな時刻。ユキは目を覚ました。最近また仕事を頻度良くするようになっていたから、りんと共に健康的な時間に床に入ったのだが自然と目が覚めてしまった。ユキはまたすぐ寝るのはさすがに無理だろうと思い、とりあえず何か飲もうと台所へと向かった。二階にあるユキの部屋から台所へ行くためには、りんの部屋の前を通ってクリビアの部屋の前にある階段を下って一階に行かなくていはいけない。ユキは自室の扉を慎重に閉めて廊下に出た。そして何を思ったか、りんの部屋の扉を静かに開けた。そこにはもちろんベットに身を沈めたりんの姿。一見穏やかに寝ているりんのようだが、夜目の効くユキの瞳には確かにりんの涙を映した。それを一瞥して、ユキはまた静かに扉を閉めた。
そして階段の前に辿り着いたユキの耳に“予想はしていた”が聞きたくなかったモノが聞こえてきた。それに足を一度足をとめたが、すぐに歩き始めた。
「………よくやる」
そう冷やかな声で呟いて。その呟きは静かな廊下に零れて消えた。
ユキはリビングのソファに座って、コップに注いだ液体をちまちまと飲んでいた。液体を体に入れるごとに体温が不自然に上がりぼおとしてきて、先程聞いた嫌なモノのことを誤魔化すことができる。
「…っふう」
大分いい感じになってきたが、コップの中にはまだまだ残ってしまっている。これをどうしようかと悩んでいたユキだが、それは横から伸びてきた腕によって解決された。
「クリビア」
名を呼ばれクリビアはユキを一瞥すると、ユキの前にあった液体の入ったコップを手に持ち隣に座った。
「これはどこから出してきたんだい」
液体を口に含みながらクリビアはユキに尋ねた。
「奥の棚の奥の下」
「よく見つけたね」
「クリビアは絶対そこに入れてると思った」
「そっか」
そしてまた口に含む。
「どうして急にこんなの飲んでるんだい」
「寝れないから」
「そうかい、今回は大目に見るけどもう飲んではいけないよ。これは毒だ」
「わかってる」
「ならいいよ」
そしてまた口に含む。
「クリビア」
「なんだい」
「クリビアは何故そんな死に急ぐの?」
「……どうして?」
「あたしが言うのもなんだけど、そんなにペース早く飲んだらさすがにラリって死ぬよ」
「それはない」
「なんで?」
「“こんなん”で死ぬほど軟な体じゃあない」
そしてまた口に含む。仰ぐ様に。
「クリビア」
「ん」
「…さっき……聞いた」
「そっか」
「これはあいつが惨めすぎる」
「知っている」
「だろうね」
「…拒否はしたんだけどね、聞かないあいつが悪い」
「…」
「―――いっそ殺シテヤロウカナ」
パリン
中身の無くなったコップが砕けて散った。
「クリビア、危ないでsh…っ」
床には何もない。代わりにテーブルにはコップが一つ。
「何が?」
クリビアは前髪の隙間からその漆黒の瞳を爛々と光らせて怪しく笑った。
「…何でもない。クリb…貴方は変わっていないことが分かっただけ」
「確かに本質は変われないよ、けど少しは変わった」
そういってクリビアは微笑んだ。
「……そうだね」
それにユキも微笑んだ。
「久しぶりで、そしてこれを飲んだからコイツに呑まれてしまったみたいだ」
「っ当たり前だよ!!!コレは甘くみたら本当に危ないだから!!!!」
「…先に飲んでた君が言うのかい」
「う゛ーそうだけどぉ!!クリビアはなめ過ぎ!」
「ははははは」
「笑い事じゃない!!」
「ごめんごめん……っと、今夜中だったね」
「あ…」
冷や汗を流すユキ。それにクリビアは笑って言った。
「まあ、大丈夫だよ。りんちゃんが起きることも、アイツが起きることもないだろうから」
「…なんでりんちゃんも?」
そんなユキの問いかけに静かにクリビアは微笑んだ。そんなクリビアにユキはため息をついた。クリビアは苦笑し、コップをもって席を立ち台所の方に行った。そして液体が入った瓶と新たなコップを一つを手に戻ってきた。
「クリビア?」
「解毒薬」
そう言って液体をコップに注ぎユキに渡した。
「…ありがとう」
ユキは渋々受け取り口に含んだ。
「ってこれ普通のジュースじゃん!」
「もちろん」
「く~り~び~あ~!!」
「冗談」
そう笑いながらクリビアは、ユキが飲んでいる間に取ってきた別の液体を新たに持ってきたコップに注いだ。そして口に含んだ。
「クリビア何飲んでんの?」
「口直し」
「―何、飲ンデんノ」
「ははは、そんな怖い顔しないで。たまには気持ちよく狂いたい時だってある」
「…ほどほどにしなよ、洒落にならないから」
「言われなくても。まだ、死ぬ気はない」
―――そう、まだ
「…」
クリビアの言葉に黙ったユキに苦笑し、クリビアはコップに注いだ液体を一気に飲み干した。
「ほら、ユキちゃんももう寝なさいな。僕ももう寝る」
「(…)わかった、そうする」
何とも言えない顔をしてユキは立ちあがり、階段へと足を進めた。
「おやすみ」
クリビアに背を向けてままユキはそう言うと階段に消えた。そんなユキの様子に再びクリビアは苦笑し、コップやら瓶やらを片し始めた。
時計の針は四時を指していた。
本話には未成年の飲酒や薬物などの服用をしているような表現がありますが、それらをけして推奨するわけではありません。これらの行為は、法律で禁止されています。




