第6話 初めての夜
ふと、カーラが素の表情を見せてしまったことに気づいたかのように、照れ隠しのように、しかしより大胆にカイに迫ってきた。
「あら、ちょっと話しすぎちゃったかしら」
カーラは優雅に立ち上がると、カイの手を取った。その手は絹のように滑らかで、同時に逃れられない確かな力を秘めていた。カイはなすすべもなく、寝室の奥にある、天蓋付きの豪華なベッドへと導かれる。
月明かりとランプの光だけが、部屋をぼんやりと照らしている。
「…でも、いいじゃない。だって私たちは“仲良く”ならないといけないものね、カイくん? 約束は守らないと…ね?」
その言葉は、悪戯っぽく、しかし有無を言わせぬ響きを持っていた。彼女の手がカイの胸に触れ、乱暴に、しかしどこか優しく押し倒される。
彼女の髪から放たれるジャスミンの蜜のような香りがカイの思考を麻痺させていく。
「カイくん、緊張してる? 大丈夫よ、私がぜーんぶ教えてあげる」
カーラの唇が、カイの唇に触れるか触れないかの距離で止まる。そこから漏れる吐息は、熱く、甘い。その声は、まるで母親が幼い子供をあやすように優しかったが、どこかカイの純粋さを弄ぶような、心底楽しげな響きを伴っている。
彼女の指が、カイのくたびれたシャツの布地を、まるで慈しむかのようにゆっくりと滑る。その指先が触れた箇所から、熱い痺れのようなものが全身に広がっていく。
いけない、と頭の片隅で理性が悲鳴を上げる。だが、体は正直に反応し、未知の感覚に震えていた。
そして彼女の唇はついに彼の唇を塞ぐ。柔らかく、そして焦げるほどに熱い。ワインの残り香と、彼女自身の甘い味が、カイの口内を満たす。初めての口づけは、彼の貧弱な抵抗を砂糖菓子のようにたやすく打ち砕いた。理性が、熱い蝋のようにどろどろに溶けて、形を失っていく。
「ふふ、可愛い」
唇が離れ、カーラは面白そうに囁いた。豊かな胸がカイの胸板に押し付けられ、カーラの指が、カイのシャツのボタンを一つずつ外していく。その動作は焦らすように遅く、カイの期待と恐怖を極限まで高めていった。
剥き出しになったカイの胸に、彼女の柔らかな髪が触れる。その感触が、また新たな震えを呼び起こした。
「ねえ、カイくん。気持ちいい?」
思考がまとまらないカイに、カーラは恋人のような口調で囁く。
「カイくんのその不思議な“目”…本当に何でも見えるの? 私のことも…何か感じる?」
「そういえばベルクト様は…一体何を求めて旅を続けているのかしら…?カイくんは、何か知っているんじゃない?」
部屋には、カーラの甘い囁き声と吐息、カイの荒い息遣い、薄絹の肌着が擦れる微かな音が響く。薄暗い照明に照らされたカーラの肌は妖艶に輝き、カイの真っ赤な顔は混乱と快楽に歪んでいた。
彼女の質問は、答えを知らないものも多かった。それでもカイが魂の奥にしまい込み、誰にも打ち明けてこなかった思いに至るまで、気がつけば、カイの内側にあるものは全て、堰を切ったようにカーラの中へと流れ込んでいた。
それはカイにとって、倒錯的な夢のような、現実感のない初めての体験だった。
「小説家になろう」は性的描写に厳しいため、この話だけは簡略化しています。
カクヨムの方でも連載しているため、より過激な元バージョンはそちらをご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/16818622176384345362