72話 人の心はあまりに脆く(後編)
前回のあらすじ
サジタリウスは、彼のもう1つの能力『心を穿つ矢』を使い、ヌンキの心臓を奪い取ってしまった。
その後、彼は再び、ケフェウス達に、『正義』についての話をし始める。
ケフェウスは顔をしかめる。
「そうであるなら、貴方達も悪のはず。違いますか?」
「違う!!」ケフェウスは怒鳴る。
「あれはヴァルガリアが『ポリマー』の人々を盾にしたからだ!」
サジタリウスは笑う。
「他人への責任転嫁ですか。まぁ、それも人間らしい。
ですが、それなら我々も同じですよ。『流星』を手にする邪魔をされるから殺す。
理由あっての殺人です。
ゆえに、いたでしょう? 我々に『流星』を渡し、襲われなかった村が。」
ケフェウスはピスケスを思い出す。
彼女は『アルレシャ』の人々に手を上げず、むしろ避難させていた。
その優しさに、彼女を斬ったケフェウス自身が後悔したほどだ。
「う、うるさい! ジェミニーは『流星』を手にしても『スン』を襲っていたぞ!!」
ケフェウスは自分の正義を揺るがせないため、なるべくピスケスのことを考えないようにしながら答える。
しかしサジタリウスは笑う。
「そう。ジェミニー君。彼もまた、つらい過去を持っていましたねぇ。
自分の家を『金髪の騎士』に焼かれ、泣き、哭き、最終的には狂ってしまった。
村を襲われた貴方なら分かるでしょう?
『自分の家族を殺した者を殺すためなら、どんな手段でも使う』気持ち。
理解できるのではありませんか?」
ケフェウスは言い返せなくなる。
「さて、今から君の本当の正義を見破ってあげましょう。
人間なんて、どうせ自分のためにしか『正義』を振るいません。私は嫌というほど見てきました。」
サジタリウスは心臓を持ち主である騎士に見せる。
「さて、これが貴方の心臓であることは説明しましたね。
つまり、貴方の命は私に握られている。
これを潰されたくないなら──仲間を裏切り、私の元へ来なさい。」
ヌンキは怒りをあらわにする。
「俺を脅すつもりか! 自分の保身のために仲間を売るくらいなら、俺は死を選ぶ!!」
サジタリウスは笑顔のままだ。
「おや? 本当にいいのですか?
貴方が死ねば、貴方の家族や友人を守る者がいなくなる、ということになりませんか?」
ヌンキは睨む。
「どういうことだ!」
サジタリウスは続ける。
「スコルピオは『キーストーン』の生き残り。そして『キーストーン』は『シェダル』を住処にしていた。
当然、場所は分かっていますから、襲撃も可能です。」
ヌンキは汗をにじませる。
「そして、ここからが重要です。
人にはそれぞれ守りたい者が違う。その優先度も違う。
貴方が死ねば、貴方が守りたかった者を誰かが守ってくれる保証はありません。
仲間のために死ぬというなら、私の提案を無視して構いません。
しかしそれは同時に、貴方の家族を見捨てることになるとお考えください。」
ヌンキの心が揺らぐ。
それを見て、オリオンが叫ぶ。
「安心しろ! 仮にお前が死んでも、お前の家族は俺達が守ると約束する!!」
しかしサジタリウスは笑う。
「おやおや。聞きました? 『お前が死んでも』ですって。
つまり彼らは、貴方を助けるつもりがないということです。
目の前の仲間にそんなことを言える人達に、大切な者の命を預けられますか?」
ヌンキは暗い声で言う。
「……すみません。オリオンさん。皆。」
ヌンキはケフェウスへ剣を構え、走り出した。
次回予告
サジタリウスの口車により、ヌンキは寝返ってしまった。サジタリウスは、その後に、ケフェウスの正義を試す言葉を話すが、彼の身勝手な言い分についに怒りをあらわにする。
次回 73話 サジタリウスとの決戦




