間章2
「もう少しです、師よ」
タユタが私を背負って走っている。さっき、私が転んで足を捻ってしまったためである。
私は、背後に目を向けた。私達に続く者は、もはや数名しかいなかった。
「ファーストピリオド」。それが、そもそもの作戦の名前だった。
武力、能力、権謀術数、etc...。ありとあらゆる手段を用いて、ガジル要塞を制圧。それを材料に交渉し、魔族の種族単位での地位だけは守り抜く。
成功すればそれでよし。しなくても、元から全滅するはずだった部隊である。失うものは何も無い。そのはずだった。
それが、一気に目算が狂ってしまった。まさか、王位継承権第1位から12位までの全てが死亡ないしは消息不明となってしまうとは! おかげで、王位継承権第13位であった私が時期魔王という立場になってしまった。
私は、今でもこの命に価値は無いと思っている。魔王を名乗ったところで、国が無いのだから意味が無い。しかし、タユタを初めとする仲間達はそうは考えなかった。「国が無くても貴女がいれば再起は図れる」と涙ながらに懇願されて、私はついに生きることを受け入れてしまった。それが正しい選択だったのか、私にはわからない。わからないのだ。
「……アイシア、ナフタ……」
「……師よ?」
「カナン、オルガン、メイジェ、ポイユ、ケイセツ、ケンベイ、ラセツ、ナブラチロワ、ルビィ、ゴルゴン、シノノ、シャフト――」
「師よ!」
「皆、いなくなってしまった」
「未来のためです」
「いいえ、私のためだわ」
「もちろん、それこそが我々魔族の――」
「そういうことではないでしょう!」
タユタが目を見開いた。怒っているはずなのに、彼が驚く顔を見て少し可笑しくなる。
驚いた? 私だって大声を出せるのよ。
「皆、魔王がどうとか言っていたけれど、私を逃がすための方便としてそう言っていただけ! 私が気づかないとでも思った? 私が王位継承権の最高位になったという報告を受ける前から、皆は私だけ逃がす相談をしていた! 結局、私は……私だけは仲間じゃなかった……。最後まで、皆の可愛いアンでしかなかったのよ」
「そんなことは――!」
「無いとでも言うつもり? あなたが私の魅了に抗いきれなくなっているのにだって、随分前から気づいていたわ」
背中越しに、タユタの心拍が乱れたのがわかった。これだけ疾走して少しも乱れなかった心拍が。
「皆、皆そうなのよ。私の仲間じゃない。結局、私の能力に当てられているだけの、哀れな人形」
「師よ、違います」
「私には、結局何も無かったのよ。最初から、敵も味方も無かった。本当に、哀れな女。でも、それももう終わり」
「……師よ?」
私の顔を覗き込もうと振り返ったタユタの目前で爆音が轟いた。
タユタが咄嗟に身を翻し、私と爆発の間に彼自身の身体をねじ込んだのがわかった。
「これは、これは、最後の敵はアークデーモンではなかったわけだ。これで色々な謎が解けたよ」
数自体は少数。目視できるのは4人だが、おそらくもっといるだろう。
先頭に立って剣を構える眼鏡の男の数歩奥に立つ少年が、おそらく彼等の頭目だろう。
「……降伏する。我々が持っている情報は全て渡す」
「生憎と、食える物以外に興味は無い。死ね」
少年が突き出した拳から、魔力の弾丸が放たれた。
とりあえず3の倍数の日に更新できるように頑張りまする。




