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勇者より軍隊の方が使えることに気づいてしまった件  作者: 亜和鵶吾明
第1章:平和的交渉
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平和的交渉65

「高木ィ、見てみろよ」


 小林が俺を呼び寄せた。医者である彼はラセツと名乗ったアークデーモンの死体の検分を行なっていた。


「アークデーモンの変化能力の汎用性の高さは知っているつもりだったが、こいつぁ驚いた」

「……アンニバルの勾玉、か?」

「たぶん本物だと思うぜ? それが胸部、左右の上腕、左右の大腿部にそれぞれひとつずつで計5つ。随分な大盤振る舞いだぜ全く」


 アンニバルの勾玉。それは、ロストオブジェクトに数えるか否かで議論の余地はあるが、少なくとも現代の技術では複製不可能な魔道具である。効果は魔力を通すと反魔法障壁を発生させることであり、それ自体が聖属性を帯びているために最上位の魔除けの御守としてやんごとない身分の者達が携帯するような代物だ。

 これがロストオブジェクトに素直に数えられないのはその希少性が比較的低いからであり、古代迷宮の奥地でこれが出土したという報告があってもそれほど驚かれることはない。

 しかし、それでも稀少であることに変わりは無い。たとえばこのデミス王国の王家でも多くて5つほどしか所有していないだろうし、国内全てを含めても二桁は存在しないだろう。それほどの逸品が、5つ。俺達が追っている相手の財力だけとっても只者ではないことが改めてわかる。流石は星霜のクドリャフカといったところなのだろうか。


「変化能力で身体の内部にこいつを埋め込んだんだろうが、アークデーモンにとって聖属性は害でしかない。相当な苦痛を伴っただろう。それでもこいつはやってのけた。俺達を無力化しても、俺達全員を殺すよりも自分が逃げることを選んだ。その状態でも俺達を確実に全滅させられる保証が無いことを理解していて、その上で撤退を選択した。そして、これまでの罠の張り方。明らかに俺達を攻撃するより、足止めする方に重きを置いている」

「それがどうしたってんだ?」

「時間稼ぎは、時間が問題を解決してくれるような状況でない限りは愚策だ。援軍が見込めない状況で籠城するのと同じ事。そして、俺は敵の指揮官を無能だとは思っていない。おそらく、奴は生存のための最善手を打っている。ここは山に四方を囲まれた窪地。俺達から追いつかれない内に山越えすることは、いくら足止めしようと不可能だ。その上で、敵は時間を稼ぎつつ逃げ回っている。何故だ?」

「……敵の援軍でも来るってのか?」

「可能性はある。王国と魔族の残党が勇者という共通の敵を得て結託した可能性。それとも他国――この場合の最有力候補は地理上グリム帝国だが、とにかくどこか外部の勢力とコンタクトをとって結託した可能性。それも考えられる。しかし、これは薄いと見ている」

「なんでそう言えんだ?」

「援軍を呼ぶ時間が流石に無いからだ。俺達がここに攻め入ってから、まだ1日経っていない。ここから外へ出るのに時間がかかるのと同様に、外からここへ来るのにも時間がかかる」

「抜け道があるんじゃねえのか? 俺達が通ってきたみてえなのが」

「あったとしても、俺達が通ってきたのと同様に塞がれているだろうな。しかも、発見されにくい洞窟は大人数で通るには狭い」

「転移魔法は?」

「あるならとっくに使っているだろう」

「じゃあなんでだ?」

「それがわからない」


 俺は夕焼けを浴びて黒々と浮かび上がる山脈を見上げた。緑を失ったそれは不気味な巨体で俺達を押し潰そうとしているように見えた。


「……小林」

「アァ?」

「わかったぞ」


 俺は、戦闘の傷跡残る山肌から目を逸らさずに言った。


「奴等の狙いがわかった」

誤字報告ありがとうございます!


情報提供とか誤字報告とかしてくれる読者様に恵まれて幸運ですね。


平日に更新が厳しいので連休中に書きためておきます。

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