平和的交渉62
アークデーモンは枝葉の影に隠れたが、無駄だ。奴の姿は、俺には生体反応を探知する「死神の眼窩」を通して丸見えである。
奴が足場にしている枝を古島に斬り落とさせ、後衛部隊による行動阻害魔法の集中砲火を浴びせると、「おわっと!」という間抜けな声と共にアークデーモンが背中から落ちてきた。
奴は落下の際に打ち付けた部分を摩りながら上体を起こし、俺達に包囲されているのに気づいて両手を挙げた。降伏の意思表示である。
「参った、参った。降参すがぁっ!」
アークデーモンが言い終えるのを待たず、俺は奴の四肢をレーヴェの玉杖で打ち抜いた。
「3時の方向、距離50に2。11時の方向、距離30に1。恐らく範囲外にまだいるぞ。近場から順に片付けろ」
「了解」
古島隊が先行し、望月隊がそれに続いた。最後に俺を含む後衛部隊が続く。
「高木ー、古島隊と望月隊が見つかったアークデーモンは全員片付けたぞ。さっき言ってた3体と、その先にもう2体。ここまでで計6体ダウンだ」
「生きている奴は?」
「最初の奴を含めて3体だな」
「連れてこい」
3体のアークデーモンが俺の前に組み伏せられた。人間より一回り大きいが、それでも向こうが負傷していることと、こちらに優秀な人員が多いので万が一にも反撃を食らう心配は無い。
最初に口を開いたのは、俺が四肢を打ち抜いたアークデーモンだった。
「へ、へ、へ、ひでーじゃねえか。降伏した兵に対して攻撃するなんざあ、人道にもとるってやつじゃあねえのかい?」
「次から無駄口を叩く度にこいつの指を一本飛ばす。俺の問いに端的に答えろ。答えなかったり、無関係のことを口にしてもこいつの指を飛ばす」
「指を飛ばす」という言葉を聞き、後ろの2体の顔が青くなったが、件の個体は片方の眉を吊り上げただけだった。
「まずはお前、名前は?」
「ラセツ」
「では、ラセツ。この部隊の指揮官はお前か?」
「違う」
「お前達は全部で何人いる?」
「30人ってとこだな」
「目的は?」
「決まってるだろ、帰りたいだけさ」
ラセツは肩を竦めた。
じっ、っと奴の、奴等の様子を観察する。ラセツの表情からは何一つ読み取れないが、後ろのふたりからは緊張の気配が感じられた。
(嘘を吐いている……いや、嘘は吐いていないだろう)
こちら側に嘘を見抜く加護がいる可能性を考えれば、ここで完全な嘘を吐くことはできないはずだ。それこそ、よほど隠したい内容で無ければ。こういう時に尋問される側が使うテクニックはよく知っている。
「そうか。だが、それ以外にも目的はあるんだろう?」
ラセツは表情を変えなかったが、後ろの2名の表情筋が更に強張ったのが確認できた。
「全て話せ。沈黙を選ぶなら四肢を飛ばす」
脅すように、古島が抜き身の剣を見せつけた。




