平和的交渉61
「これは、一体どういうことだ?」
「可能性はいくつかある」
ひとつ、魔王軍の協力者、あるいは魔道具が死霊術の行使を可能にした可能性。
ひとつ、魔王軍に敵対する何者かがケンベイを斃し、その骸を死霊術で使役した可能性。
ぱっと思いつく範囲でもこれくらいだろうか。他にももっとあるだろう。なんにせよ――。
「状況が読めない。暫くは厳戒態勢をしく」
敵を狩ろうとして狩られるなどという間抜けな事態に陥ることだけは避けねばなるまい。
俺達は、慎重に探索を再開した。
「……隊長」
「またか」
俺は7度目の停止命令を出した。指示が行き渡ったのを確認すると、望月が佐竹を連れて少し先の大木の根元まで歩を進めた。
魔術師の加護を持つ佐竹が妨害魔法を展開する。その範囲内に望月が足を踏み入れると、魔方陣が浮かび上がりかけて消えた。魔法の罠が佐竹の妨害魔法に無力化されたのである。
望月は不発に終わった魔方陣のことなど意に介さず、ナイフを片手に足下を念入りに調べ始めた。数秒後には何かを見つけたようで、ナイフを何かに当てて慎重に刃を動かした。
「シュッ!」と張り詰めた糸が切断されて空を切り、望月の目の前の辺りの下草が根元から刈り取られた。
「……ワイヤートラップだ。知らずに踏み抜いていたら足首が落ちていただろうな」
俺は内心で敵の指揮官に対して舌を巻いた。
物理、魔法の二重トラップ。そして、こちらの命を奪うことでは無く負傷させることを目的とした罠。これまでの分も含めて、どれも時間稼ぎとしては十二分に効果を発揮している。
俺が敵の立場ならもっと上手くやる自信はあるが、敵もまた非凡であることはもはや認めざるを得なかった。
一先ずの安全が確認できたところで、探索を再開する。そして、それから十分と経たないうちにそれはやってきた。
「――伏せなさい!」
古島が俺の頭を地面に押さえつけた。鼻先と口元を強かに打ち付け、血のにおいと味がそれぞれ鼻腔と口腔内に広がった。
頭を上げると、俺の後ろにあった木の半ばが石化していた。俺の頭があった位置を通過した何かに当たった結果らしかった。
――タァン! タァン! タァン!
望月が攻撃の発射地点と思われる茂みに銃撃を加える。すると、猿のような俊敏な動きで、何かが木々の間を移動し、俺達の頭上の枝葉の中へと消えていった。
見えたのは一瞬だが見間違えるはずが無い。あれは、戦中に我々が散々苦しめられた種族、アークデーモンだった。




