平和的交渉56
「たーとーえーばー、通気孔から毒ガスを流すというのはどうかしらぁ? それなら、隠密性は完璧よ? だって壁を破る必要すら無いんだもの。通気孔、絶対にあるはずよね?」
言うまでも無く安藤の提案である。確かに、この中が密閉状態になっているはずがないというのは道理である。
「いい考えだ。だが、中の地形と状況がわからない。他に出口がある可能性もあるし、そもそもアークデーモンがもうここにいない可能性もある。仮に実行するとしても、中の広さがわからない以上、流すべき毒ガスの量がわからない」
「あらぁ、残念」
安藤はしょんぼりと項垂れた。ここに初対面の男がいたならば、きっと安藤にフォローを入れたり慰めたりするのだろう。しかし、俺達の中にそんな愚行を冒す者はいない。表面上は可愛らしく、庇護欲をそそるように項垂れていても、内心は「何が起きているかもわからずに苦しんで死ぬ声が聞きたかったのに……。あーあ、どこかに活きのいいスパイでも転がっていないかしらぁ?」とか思っているに決まっているのだ。
「あはぁ、隊長がまた何か楽しいことを考えている気がするわあ♡」
「勿論、如何にしてこの壁を突破するのが最善手かを考えている。期待していろ」
「ええ、期待しているわね。でも残念……。鼠達が何が起きているかもわからずに苦しんで死ぬ声が聞きたかったのに……。あーあ、どこかに活きのいいスパイでも転がっていないかしらぁ?」
「……」
「なぁに?」
「……なんでもないっす」
「高木、何で若干敬語入ってるんだ?」
杉下の煽りをここまでウザいと思ったことはない。俺は無言で杉下を睨め付けた。
つーかやっぱ安藤恐っ! 恐い恐い恐いマジ恐い! これも加護なのか? いやこいつなら素でやっててもおかしくない。やべえ、今からでもこいつ西園寺が引き取ってくれたりしないかな……。
「おーい、おーい、高木? おい安藤、あんま高木脅かすなよ。自分の世界に引きこもっちまったじゃねーか」
「あら、心外ね。私の発言のどこが脅かしているように見えたのかしら?」
「発言というか、存在だよな、お前の場合」
「……ふふっ」
「あ……が……が……が……」
「学習しないわね、杉下は」
「状況に配慮して悲鳴が出難いタイプの拷問にしてみましたぁ」
TPOを弁えているのかいないのか怪しいところである。




