平和的交渉55
そもそも、洞窟の横穴を分厚い土壁で塞ぐというのは重労働である。トン単位の土砂や石を運搬し、それを積み固めていくことになるからだ。言うのは簡単だが、少人数で熟すとすれば並大抵のことではない。
確かに、アークデーモンの身体能力は人間に比べれば秀でている。とはいえ、だからといって、ガジル要塞に奇襲をかける電撃作戦中の彼等に、また、それに失敗して本拠地である魔王城への退路も無い中で敗走する彼等に、そんなことをしている暇は無かったはずなのだ。そこにずっと引っかかっていた。
「魔法で作られた炎は、マヒャドの眼を通すと術者が維持している間は魔力の塊に見える。しかし、術者の手を離れれば物理的な手段で熾した炎と変わりない。魔力残滓が残るだけだ。それと同じことが魔法で作られた壁に対しても言える。本来なら、ここの壁には形状を変化させた際の魔力残滓が見えるはずなのだが、それが罠の魔力残滓と被って区別がつかなかった。それで気づかなかったんだ」
「へえ、よく気づいたじゃない」
「気づいたのは斉藤だ。言われてみれば全くその通りだ」
むしろ、種明かしされてしまえば何故気づかなかったのか不思議なレベルである。元の世界にいた頃のクイズ番組を思い出すな。
「いや、僕は思ったことを言っただけだよ……。ここに横穴があるなんて思いもしなかった」
謙遜しつつも照れ笑いを浮かべる斉藤。こいつは本当に、たまに鋭い時があるな。思えば、西園寺がどのような戦略をとってくるのか尋ねた時にもそうだった。
「さて、場所さえ割れてしまえば、あとは如何にしてこの壁を割るのかという話になってくるが――?」
「ドカンとやっちまいなよ大将」
加藤が煽りを入れていくる。
「いや、この奥の地形がわからない以上、できるだけ隠密にいきたい」
「え、アリスちゃん、先の地形わからないの?」
「空洞があるということ以上は、残念ながら。壁が結構厚いのよ」
緑山は美しい金髪のかかった肩を竦めた。




