平和的交渉54
「その、マヒャドの眼を通すと、どう見えるのかなって。例えば、魔法で洞窟の壁を変形させるとして、たぶん、変形させている最中には魔力が通っているから僕にも見えると思うんだ。でも、変形させ終わった壁のことは、マヒャドの眼はどう判定するんだろう、と思ってさ。やっぱり魔法で変形させた壁は魔力の塊なのかな?」
沈黙。短くない沈黙がその場を支配した。斉藤の「え、えっと、やっぱなんでもないや。あはは……」という言葉は、思考の海に沈む俺の耳には入っていなかった。
あの時は、ああだった。であれば、あれはああなはず。つまり、最も考えられる結論としては――。
――ああ、なんで気づかなかったんだ!!
「斉藤」
「うん?」
「お前は天才だ」
俺は洞窟へ駆け出した。何事かと思った仲間達もついてくる。カモフラージュの壁を潜り抜けたところで、まさに今横穴の調査を開始したばかりの緑山と合流した。
「緑山、わかったぞ」
「え、何があったの? わかったって、横穴の場所?」
「そうだ。ここを調べてくれ」
俺が指し示したのは魔法の罠が仕掛けてあった場所である。罠を解除した今でも、魔力の残滓が漂っているのが見える。魔方陣の痕跡までくっきりとだ。
「ええ、まあ、いいけれど……」
緑山は罠の周囲の壁をノックしている。
コンコン、コンコン、コンコン――。
そして、緑山はその場所で立ち止まった。
「驚いた。ここは音が違うね」
「でかした!」
勿論、俺には全く違いはわからなかった。しかし、彼女が言うからにはそうなのである。絶対音感という特性を元来備え、それを「調律師」の加護で強化した緑山アリスが言うからには。
「なんでここだとわかったんだい?」
「アークデーモン達はやはり魔法で横穴を塞いだと思ったからだ」




