平和的交渉41
「さあ、答えろ」
「ま、ま、待ってくれ! 息を整えさせてくれ!」
大袈裟な動きで深呼吸を繰り返すハゲ親父。時間稼ぎをしていることはわかっている。無駄だ。お前はもう完全に包囲されている、というやつだ。
「よ、よし、わかった。言う、言うぞ。俺はパブロ。魔王軍と内通など、しようと思ったことさえ無い! 本当だ!」
「だそうだが、西園寺?」
「……お前は、デーモンの類か」
「なっ、勇者様!?」
ハゲ親父がぎょっと目を見開いて西園寺の脚に縋ろうとするが、西園寺は力任せにそれを振り払った。ハゲ親父は数mの距離を転がって漸く止まった。暫く痙攣して動かなくなったハゲ親父の身体に、突如異様な変化が起きた。
服で隠れていない素肌がぶくぶくと泡立ち、肌質は滑らかに、肌の色は赤褐色に変わっていく。身体の各所からはミシミシと古い木の床板が軋むような音が響き、身長は2m以上に、脂肪をこれでもかと詰め込んだ風船のような体型は、引き締まった筋骨隆々のそれに変化し、纏っていたボロボロの服は体積の膨張によって引き裂かれた。
そこで無様に意識を失っているのは、間違いなく魔王討伐戦で幾度となく刃を交えた強敵の一種、デーモンの類である。
「こ、これは一体……!?」
「魔王軍のアークデーモンだろう。どこかのタイミングでこの男に成り代わっていたのだ。察するに、戦争に敗れてひとまず人間に身を窶したまま身の振り方を考える途中、都合良く現れた勇者を利用しようと考えたのだろう。ここで勇者と王国をぶつけてその混乱に乗じて……大して面白い話でもない」
もっとも、監視だけがこいつの目的とも思わないが。村の有力者に成り済ましていた辺り、村人達を都合のいいようにコントロールする役目も担っていたはずである。より村人達に影響力のあるジャンやジャックに成り代わらなかったのは、恐らく彼等が家族として同じ家に住んでいるからだろう。
どういうことかというと、アークデーモンの変化術には「変化限界」という時間的制約が存在する。その制約をクリアするために、定期的にひとりになれる人間を成り代わりの対象者とするのが望ましいのだ。家族と住んでいる人間を対象にすると、ひとりになれる機会を減らすか、あるいは一家丸ごと成り代わるだけの人員が必要になる。だから、アークデーモンが最少人数で村人に成り代わるなら独り暮らしの人間が理想なのだ。おそらく、このハゲがそうなのだろう。
俺は、アークデーモンが完全に意識を失っているのを確認し、厳重に拘束しておくように指示した。
そして、俯いて唇を噛んでいる西園寺に向き直る。
「どうだ? 理解したか? ここの人達にとって、お前の存在は害でしかない。お前があくまで正義の勇者を気取るなら、急いでお前の愉快なお仲間を回収してやるべきだと助言してやる」




