平和的交渉38
「さて、改めて確認するが、我々との取引に反対の者はいるか?」
俺の言葉にいい顔をする者こそいなかったが、明確に反対の意志を示す者もいなかった。
「よろしい。では――」
「待て! 皆、こんな話があっていいわけがない!」
反対意見を出さない村人達に、ハゲ親父が口角泡を飛ばして怒鳴りつけた。
「この方は勇者様だ! 神々の世界から降臨され、我々のために魔王を討伐して下さったお方だ! この国はそんな方を今になって指名手配したんだぞ! 勇者様と国王、どちらに非があるかなど火を見るより明らかではないか! 恥というものを知っているなら、この国と戦をしてでも勇者様にお味方すべきではないか!」
そもそも、こいつは集会所で行なった俺達との交渉には一応同意していたはずなんだがな。一体どういう思惑で動いているのか不可解である。あくまで道理としてはこいつが今言ったことには一理あるだろうが、かといって勇者に肩入れすれば死ぬだけだ。一介の農民に過ぎない彼等に、道義に殉じる筋合いなど無いだろう。にも関わらず、彼は利害を度外視し、道義を傘に着て村人達を死地へ追いやろうとしている。俺は、俺達はそういう人種をよく知っている。それは、例えば政治家や、将軍、そして宗教家等……。
――いや。
「荒川、仕事だ」
「え? あ、うん。あのパブロって人?」
「いや、俺達の部隊全員だ。西園寺も入れてやれ」
「えっ、そっち? わかった」
俺は、ハゲ親父が演説で皆の気を引いているのを利用して、こっそりと荒川昴に声をかけた。こういう場面では、彼女の加護が役に立つ。
「おい、そこのハゲ」
「なっ、俺はパブロだ! さっきから偉そうに! 年長者に対する敬意というものを知らんのか糞餓鬼が!」
「今初めて名乗られたのだから仕方ないだろう、ハゲ。いくつかお前に訊きたいことがある」
「お前の問いに答えてやる気など無い!」
「それは勝手だがな。答えなければ立場が悪くなるのはお前だ」
「なんだと?」
「では問おう。お前は誰だ?」
ハゲ親父は表情筋ひとつ動かしこそしなかったが、その瞳孔が大きく見開かれたのを俺は見逃さなかった。




