平和的交渉35
「ん? どうした? まさか無償で天下の勇者様をこき使うつもりだったのか?」
「い、いいやまさか!」
慌てた様子で首を振るハゲ親父。勇者を聖人君子だとでも思っていたのだろう。たしかに西園寺は似非聖人君子ではあるが、似非とついているからには似非なのである。そこに信念や、確固たる基準などありはしない。正義の名の下に耳障りのいい理屈を振りかざし、他人の支持を得る快感の中毒者なのだ、この男は。唯一無二の善悪がこの世にはあって、巨悪を打ち倒せば世界は救われると本気で信じている。
そんな幼稚な男に、勇者という我儘を貫き通せるだけの力が与えられてしまったから始末に負えない。彼は、自身の鼻っ柱をへし折られるチャンスを未来永劫失ったのである。
冷めた目で事の成り行きを眺めていると、慌てた様子のハゲ親父は取り繕ったように報酬の話を始めた。
「で、ではいかほどご入り用でしょうか? 3ヶ月分程度あれば足りますでしょうか?」
「そうだな、それだけ頂けるなら喜んで引き受けよう」
「おお!」
ハゲ親父も勇者も満面の笑みだ。互いによい取引ができたと思い込んでいる。事務仕事をこれまで一度も熟したことがない西園寺はともかく、このハゲ親父は歳だけくって何も学んでいないのだろうか。契約のしかたが雑すぎる。
「待って下さい!」
そろそろ口を挟もうかと思っていたところで声を上げたのはジャンだった。
「勇者様、申し訳ありませんが、勇者様方の3ヶ月分の食料は提供できません!」
「こらジャン! 何を言っている! 勇者様おひとりの3ヶ月分の食料で我々は冬を越せるんだぞ! そこの乱暴者達に頼むより勇者様を頼る方がいいに決まっているではないか!」
「何? 俺はひとりではないぞ?」
「えっ?」
ハゲ親父は再び間抜けな声を上げた。
「勇者様には、高木さん達と同程度の人数のお仲間がいらっしゃるそうだ。その3ヶ月分の食料となると、奪われた物資が手つかずで残っていたとしても……」
「な、なんと……」




