平和的交渉34
「仮に、これが利のある取引だったとしても、関係ない。何故なら、もっと利のある取引が目の前にあるからだ!」
戸惑っている村人達の中からそう声を上げたのは、俺達がここに来た時に「脅しで契約を迫った」と糾弾したあの男だ。面倒臭いのでハゲ親父とでも呼称しよう。彼は、勇者の目の前に歩み出て、跪いて嘆願を始めた。
「勇者様! 魔族に我々の大事な家族と、丹精込めて育てた作物を奪われてしまいました! これでは我々は冬を越すことができないのです! どうか、どうか我々のために、奪われたものを取り戻しては下さいませんか!」
「やめんかパブロ! 俺達は確かに彼等との契約に合意したはずだ! 俺だって納得して同意した! それを今更反故にするのは道理に反する!」
「やかましいわジャック! 撃たれて怖じ気づいたか!」
目の前で概ね予想通りの行動をとり始めたハゲ親父と、意外にも俺達との契約を守るつもりでいるらしいジャック。この男は頑固だが、やはり一本筋の通った男のようだ。取引相手としてこれより好ましい相手は無い。
目の前で紛糾する議論(というかただの言い争い)を涼しい顔で聞き流し、俺は新たな一石を投じた。
「おい、西園寺。この方々はお前と交渉したいそうだが、どうする? お前がやりたいというなら交渉させてやってもいいぞ」
「む、それは……」
西園寺は黙り込んだ。彼が葛藤していることは大凡検討がつく。既に成立した契約に横槍を入れるのは正義に反するが、食料を争うことなく手に入れられる好機を逃すのはあまりにも惜しい。おそらくそんなところだ。だが、その葛藤は無意味だ。お前と村人達の間には、如何なる約定も成立し得ない。
その確信がある俺は、彼等の間にあるクレバスを表面化させるべく状況を動かす。
「さて、勇者西園寺殿も乗り気なようだし、具体的な契約内容の話に移ろうか。まず、勇者西園寺はここに控える村人達から何を報酬に望む?」
「そりゃ、食料とか、消耗品を頂くことにはなるだろう」
「えっ」
ハゲ親父が間抜けな声を上げた。




