平和的交渉33
「ふざけるな! 何が『合意の下』だ! 暴力で脅しただけじゃないか!」
群衆の中からそう叫んだのは、あの交渉の際、小屋の中にいた男のひとりだ。ジャンでもジャックでもない。正直、あの場にいたジャンとジャック以外の面子には何の印象も持っていないため、俺の中ではその他の村人と同列である。
「暴力によって契約を迫ることなどあってはならない! 俺は、お前達を正義のために断罪する!」
「正義、正義と連呼するなら、まずは話し合おうじゃないか。そもそも、お前はここでの出来事について村人達の話しか聞いていないのだろう? 片方だけの意見を判断材料にすることは正義の精神に則った行いなのか?」
「そ、それは……」
西園寺が口ごもった。どうやら俺の主張に正当性を見出したようだ。相変わらずこいつは馬鹿でちょろくて扱いやすい。王国の王や臣達も同じことを思っていたことだろう。
「まあ全員、聞きたまえ。俺達とこの村の有力者達の間で交わされた取り決めは以下の通りだ。まずは――」
俺は、あの集会所で決まった契約の内容を全員に明かした。それでも、村人達の敵意に満ちた表情が変わることはなかった。
「――以上が、我々と諸君等の間で交わされた約定である。合意に至る過程で多少熱くなってしまったことは認めよう。しかし、この件は我々としても死活問題であり、しかも諸君等と同じく、既に飢餓状態にある。非礼は詫びる。どうか水に流して頂きたい。この通りだ」
俺は土下座をし、地面に額を擦り付けた。実利を取れるなら、恥も外聞も安いものである。特に、命の懸かった状況に於いては。
そして、土下座の姿勢から上半身だけ起こし、俺は言葉を続けた。
「その上で冷静に考えてほしい。この取引は、君達にとって損害だろうか? 我々は命を失う危険を冒して労働力を提供する。諸君等は我々に物資を提供する。互いに利のある取引を提示したつもりだ。どうだろう? それでも不満がある者はいるか?」
村人達は戸惑った表情を浮かべ、互いに顔を見合わせている。我々に向けられていた敵意は、少なくとも表面上はその大部分が沈静化しているように見えた。




