平和的交渉32
「ジャン、君は、君達は、再び選択肢に直面している。ひとつは甘美な茨の道。勇者様を助け、この王国と全面戦争を行なうことだ」
「戦争ですって!?」
「そうだ、戦争だ。勇者と取引をすれば、王国はこの村を勇者の一味として糾弾するだろう。これは徹底的に行なわれるはずだ。そうすることで、その後勇者に肩入れする連中を牽制できるからな」
「そ、そんな……しかし、こんな辺境での出来事が知られることはないでしょう。向こうの情報がこちらに入ってき辛いのと同様に、こちらの情報も向こうには届きにくいものですから」
「残念だが、その時は俺達が通報することになる」
「なっ……!」
「そして王国は間違いなく厳重に処罰する。何故なら、彼等は見せしめを作りたいからだ。事の真偽などはどうでもいいのさ」
「勇者様があなた方を黙って逃がすとお思いで!?」
「残念だが、そもそも我々は、ここに勇者から逃げ果せてきたのだよ。奴に勝つのは不可能だが、それ以外ならば手の打ちようはいくらでもある」
「とても信じられない……!」
「よろしい、ではここからは勇者を交えて話すとしよう」
俺はジャンの頭髪を解放した。暫く俺の手の中で握り固められたそれは、寝癖のように間抜けな状態で固まっていたが、ジャンはそれに気づく様子もなく、俺の数歩先を早足で勇者の元へ急いでいる。
やがて、やたら絢爛な鎧を纏って何やら喚き立てている美青年と、それを囲んでざわついている村人達の下へ辿り着いた。ジャンが来たことに気づくと、村人達は無言で西園寺への道を空けた。そして、その後ろに続く俺達には敵意の籠もった視線が投じられた。
「高木! ついに追い詰めたぞ! 俺が来たからには、ここの人々に指一本触れさせない!」
「そもそも彼等に危害を加えるつもりはない。彼等と我々の間には、既に合意の下に契約が結ばれている」
俺がそう返すと、村人達から向けられる敵意の密度が更に上がったように感じられた。




