平和的交渉31
「なんですって?」
ジャンは心底不可解というように眉根を寄せた。当然の反応である。戦闘力だけを見るならば、勇者部隊と一介の傭兵団、同じコストで雇えるならば勇者が率いる方を雇いたいと思うだろう。
「君達の下へは国からの情報が本当に届いていないと見えるな?」
「ええ、ここは辺境ですので、どうしても都会などの様子を知るのは遅れます。行商人などが来れば噂なども流れてくるのですが、それもまだ戦争が開けてから一度も来ていない現状でして」
「道理だ。これを見ろ。文字は読めるな?」
「は、はい」
ジャンは俺が差し出した羊皮紙を慎重な手つきで受け取った。この村で使われている紙は木の皮を鞣したものであったから羊皮紙は貴重品という認識なのかもしれない。
ジャンの視線がややゆっくりと紙上を滑り、半ばを過ぎたところでその顔からさっと血の気が引いた。
「こ、こ、こ、これは本当なのですか!?」
「ああ、事実だ。国は勇者とその一味を賊として指名手配している。今、あいつはテロリストだ。――勿論、それに荷担する者達も」
ジャン青いままの顔で自身のつま先へと視線を落とした。額から脂汗が滲み出し、その高い鼻を伝って雫となって地面に落ちた。
「国を救って下さった勇者様を指名手配だなんて……正気ではない」
「ああ」
「こんなことをして、王様が黙っていないのではないですか!?」
「この御触れを出したのはその王様だ」
「お、王がそうだったとしても、大臣や、元老院は! 救国の英雄に対するこんな仕打ちを、咎める者がひとりもいないわけではないでしょう!」
「中にはいるのかもしれないが、彼等の声は現状、その他大勢の声に埋もれて溺れている。窒息するのも時間の問題だろうな」
「……国は、王は、自らの保身のために勇者様を排除しようとしているのですね?」
「そうだ」
「恥知らずな!」
「しかし、君達にはどうすることもできない」
俺は、ジャンの髪を掴んで無理矢理顔を上げさせ、その血走った目を覗き込んだ。




