平和的交渉28
夜明けと共に進軍を開始した魔王軍は、ガジル要塞の城門に近づくにつれ、ある違和感を覚えていく。
――勇者はどうした?
いつもならここまで近づく頃には会敵しているはずなのだが。しかし来ないなら来ないで好都合。城門に取り付いてやろう。
そうして進軍していくと、漸く右翼と左翼が会敵したとの報せが届く。防衛線を築き、こちらの進軍を阻止しているらしい。そして、どうやら勇者は右翼側にいるようだ。
まともな指揮官なら違和感を覚えていたことだろう。勇者を差し向けるなら間違いなく正面。そこさえ彼に任せておけば王国側に敗北は無いのだから。しかし、違和感を覚えたか否かは定かでないにしても、結果この名も知らぬ指揮官は軍の足を止めなかった。それだけが事実だった。
城門前まで辿り着き、攻城兵器の準備をしていた魔王軍は、城門に見慣れない球体が埋め込まれていることに気づく。よく見ると、それは封印に用いられる石のようだ。
――一体何故あんなところに?
魔王軍にそう思う暇があったかどうかはわからない。次の瞬間には封印石が瞬き、長大な棒が石から生えるように出現していた。それは右側に伸びたと思えば、封印石の固定されている鋼鉄製の巨大な城門が軋むほどの速度で水平に振るわれ、俯瞰視点で扇形に、上半身と下半身が断裂し、断面が焼け焦げた魔王軍の骸を大量生産していたのである。
この一撃で魔王軍は戦意喪失し、国境付近の自軍の拠点まで撤退。それから数度、様子見するように小規模な部隊を送り込んできたが、グングニルが3度振るわれる頃には要塞付近まで部隊を派遣することこそあれ、その射程内に踏み込んでくることはついに無かった。
以降はグングニルの射程外からの魔法攻撃によってガジル要塞を攻撃していたが、その程度ならば勇者抜きのガジル要塞の防衛戦力でも十分に対処することができた。これが確認されたことで、勇者部隊が魔王領へ進軍することが可能となったのである。
以上がグングニルという兵器に関するあらましである。ちなみに、この「グングニル」という名は加藤がつけたものだ。中二病とからかわれていたし、俺もからかったが、実は俺も全く同じ名前を考えていたことは誰にも言っていない。




