平和的交渉26
気が緩み、両脚が身体を支える力を失ったのを感じた。仰向けに地面に倒れ込む。棒を握っていた左手は炭化し、手首から先がぼろりと脆く崩れ落ちた。俺の左手だった肉塊は、焦げて棒にこびりついていることだろう。薄れ往く意識の中で、魔法使い達が回復魔法をかけつつ俺の口元に小瓶を近づけるのが見えた、おそらくあれがロストポーションなのだろう。口の中に流れ込んできた液体の冷たさは心地よかったが、味を感じることはできなかった。「そう何度も口にできるものではないだけに勿体ない」と、我ながら暢気な考えを最後に、俺の意識は暗転した。
目を覚ました時、俺はガッカの家のベッドにいた。左手は綺麗に復活していた。横に控えていた魔法使いに尋ねると、俺は三日三晩眠り続けていたらしい。魔法使いに「あの棒はどうしたのか?」と尋ねると、「あの場所から動かすことはできなかった」と回答された。なんでも、俺が触れた後は一見熱を放たなくなったように見えたが、誰かが触れようとすると急に高温になったために結局誰も触れることができなかったそうだ。触れようとした魔法使い1名が負傷したらしいが、軽傷であり既にほぼ完治しているらしかった。
件の棒について、結論から言えば、その棒は「デルフィルゴールの焼き印」と呼ばれる神話の遺物そのものか、でなければそれを模して作成されたロストオブジェクトだと考えられる。デルフィルゴールというのは、神話では最高神に有罪と判断された神に罪の烙印を押す神である。この神はその役職とは裏腹に怠惰な性格をしており、住処である雲の上から降りてこようとしない。最高神が有罪を宣言する度に呼びつけられることを面倒に思ったデルフィルゴールは、ある日、世界の果てまで届く柄の長い焼き印を作った。最高神が有罪を宣言した時、デルフィルゴールがその焼き印で雲の上から烙印を押すと、侮られたと思った最高神は怒ってデルフィルゴールを有罪だと宣言し、デルフィルゴールが作った焼き印で自らデルフィルゴールに烙印を押した。こうして、デルフィルゴールは役割を剥奪され、別の神がその役割を引き継ぐこととなったそうである。




