平和的交渉25
それを見た瞬間に、ある仮説が閃いた。棒から離れて休んでいた魔法使いのひとりを呼び、今実行できる最高の回復手段を尋ねた。魔法使いは、王からロストポーションを預かっているため、1度ならば死にさえしなければそのような傷からの回復も可能であると答えた。ロストポーションというのは、失われた文明によって作られていたとされる太古の遺物のひとつで、稀にダンジョンの奥深くから発掘される代物である。王がそれを持たせているというのに少し驚いたが、グングニルの開発が戦争の行方を左右すると言って過言では無いのだから考えてみればあり得る話ではあった。ただ、王が「成功すれば儲けもの」程度の軽い気持ちでなく、そこまでグングニルに賭けているというのが意外だったのだ。王国は、この時点で俺が思っているよりも遙かに追い詰められているのかもしれなかった。
それを聞いた俺は、棒の側まで真っ直ぐに歩み寄ると、迷い無くそれを掴んだ。手の肉が焼ける感覚は一瞬で、意外なことにすぐに痛みを感じなくなった。神経が麻痺したのか、それとも死んだのかはわからない。自分の手の肉の焼ける香ばしく悍ましい匂いを嗅ぎながら、舌や頬の内側を噛んで必死に意識を繋ぎ止めた。魔法使い達が慌てて駆け寄ってきて俺を棒から引き離そうとしたが、「触るな!」と叫んで拒否した。相手の気持ちを慮っている余裕は流石に無かった。俺を引き離すのを諦めて回復魔法を唱え始める魔法使い達を横目に、俺は必死で精神を集中する。この世界に来てから息をするようにやっていたことである。人一倍訓練を積み、この技術に於いてはこの世界でも有数の人間になったという自負があった。そう、この世界で有数の「工兵」に、である。
そして、苦痛に耐えること数時間――実際には数分程度であったはずだが、俺には数時間にも数日にも感じられた――俺は、まだ生きている神経細胞に届く熱量が減衰しているのを感じた。




