平和的交渉18
「この問題で重要なのは、魔王討伐戦終盤に於けるこちらの前線と勇者部隊がいた魔王領侵攻との出来事の時系列だ」
俺は胸ぐらを掴んでいた杉下の手を払い除けながら言った。杉下の手は抵抗なく外れた。
「そもそも、勇者部隊の最終作戦である魔王城攻略戦は、『クドリャフカを退場させることによって敵の転移魔法による補給を制限することができた』という前提の下に行なわれた。当時は魔王軍がこちらの想定外の別の手段を講じる可能性もあったが、今となっては我々の作戦は成功したため、結果的に件の前提はクリアできていたことがわかる。さて、では我々がクドリャフカを倒した時点でこちらの前線で何が起きていたかといえば、まだ斥候同士の小競り合いも始まっていなかった。つまり、こちらに魔王軍第4師団や『剣鎧』、アークデーモン小隊を非物理的な手段で転移させるという試みは、敵方が転移魔法に制限を受けた状況下で行なわれたことになる」
「は? なんでまたそんなことを?」
「目的は不明であり、今は重要ではない。今重要なのは、『魔王軍は輸送にどのような手段を用いたか?』だ。クドリャフカの能力が無ければ、魔王軍はこれだけのリソースを輸送する転移魔法を使うために大量の含魔材を消費するか、あるいは相当高位の魔道具……それこそ『ベルナムの巨靴』レベルのものを使わなければならなかったはず。いずれにせよ、俺の知識の範疇でこの輸送が行なわれたなら、そう何度も転移魔法を行使できなかったはずだ」
「奴等の転移は一方通行だったってことか?」
「そう見ている」
俺は説明を聞き終えたメンバーの反応を伺った。しかし、やはり彼等の表情は芳しくない。
「不明瞭なところが多すぎる。例えば、お前は重要では無いと言ったが、お前の仮説通りだとするとこちらに飛んできた魔王軍の行動に合理的な説明がつかない。俺達が本拠地に攻め込んでいる時に、こんなところで孤立するためにわざわざ奴等はやってきたっていうのか? それもとんでもないコストまで支払って?」




