平和的交渉16
「それで、労働ヘの対価はたった2日分の物資か?」
集会所の敷居を跨いだ直後に、杉下が肩を怒らせて詰め寄ってきた。
「話はここから離れてからだ。交渉相手に弱みを見せるな」
「俺にとっては交渉相手じゃない」
「なら、俺と交渉するか?」
俺は杉下の胸元に拳を軽く当てた。俺の指に「レーヴェの玉杖」と呼ばれる宝石を嵌め込んだ指輪がいくつもついていることを杉下は知っている。集会所の中でジャックを負傷させたのも、これらのひとつの効果である。杉下は険しい表情のままで数歩後退った。
「とりあえず場所を移すぞ。そこで全て説明する」
俺はこの場にいる元勇者部隊の全員にそう言って森の法へ歩を進めた。加藤と古島がそれに続き、少し遅れてその他のメンバーがそれに従った。
さて、森に入って少しの場所。ここなら相当騒がない限り俺達の声は村人達の耳には届かないだろう。
「お前の要求通り、場所を変えてやったぞ。さあ、さっさと説明しろ」
「とはいっても、それほど説明することは多くない。物資を奪う対象が村人から魔王軍に変わった。それだけだ」
「どうしてそうなる! あいつらから奪えばいいだろうが!」
杉下が右手で俺の胸ぐらを掴み、左手で村の方を指さしてそう言った。
「お前は言ったはずだ。『手を血に染めてでも生き残る』と! ここにいる奴等は皆その覚悟で着いてきた! 今更お前が尻込みするのか!? 何とか言え!」
「こうするのが最も合理的だ」
「どこが合理的なものか! 魔王軍から物資を奪い返して、しかもその半分を村に渡してその残りで冬を越すだって? 不可能だ! そもそも奪われた物資に奴等が手をつけていないはずがない! 奪われた時点で相当な量があったとしても、それを兵士の食料に回したはずだ! もう芋の尻尾だって残っちゃいないだろうよ!」
「その認識が間違っている」
「どこがだ!」
口角泡を飛ばして喚き散らす杉下が段々鬱陶しくなってきたので、俺は加藤の方に視線を向けた。それだけで彼は俺の意を汲み、説明を引き継いだ。




