平和的交渉15
「わかった。今回限り、お前達との取引に応じる」
「結構。こちらも無用な殺生は望まない」
「……よく言う」
「では、今度こそ名前を伺おうか」
「ジャックだ」
俺は横たわるジャックに手を差し出した。ジャックはその手を取ることなく、自力で上半身を起こした。
「だがな、ここにいる全員が賛成したからって皆が従うとは限らんぞ。食料が少ないのは皆わかってるんだ。それを差し出すなんて言ったら暴動が起きる」
「こちらとしては、それでも一向に構わないが?」
「村の誰かに怪我のひとつでもさせてみろ、この話は無しだからな」
「だから、こちらとしてはそれでも構わないと言っている。無駄な犠牲が出るかどうかは、全て君達の双肩にかかっている」
「野郎……!」
「親父! こうなったら皆を説得するしかない! 今のままで仮に冬が越せても、次に畑に植える種さえ無いじゃないか! 彼等の機嫌次第でどの道、俺達は死ぬ! こうなったら彼等が契約とやらを守ってくれることに賭けるしかない!」
拳を振り上げたジャックを、ジャンが羽交い締めにして止めた。この親子は互いの短所をうまく補完しあっているように見える。なかなかいいコンビだ。
「高木さん、村の皆は俺が絶対に説得してみせる。代わりに、皆の前で宣言してほしいことがある」
「聞くだけ聞こう」
「攫われた者達の特徴を書き記してお渡しする。犯人の根城を突き止めたら、彼等がそこにいるかどうか、亡骸があったかどうかを確認することを約束してほしい」
「それなら契約の範疇だ。約束することに問題は無い。ただ、敵の戦力や状況によっては攫われた者達の捜索は断念することも、そちらには了承してもらうが。後になって文句を言うのは無しにしよう」
「それでいい。俺の娘も連れて行かれたんだ。頼む、死んでいるとしても墓は作ってやりたい」
「仲間の命と引き替えにする気は無いが、そうならない限りは時間の許す限り捜索することを約束する」
「本当か! わしの甥も攫われたんだ……!」
「俺の弟も! 食料でも燃料でも渡すから……! 頼む……!」
この集会所に入ってから泣くか喚くかしかしてなかった取り巻き連中が鬱陶しいくらいに縋り付いてきた。オッサンに集られても不快なだけなので「わかった、わかった」と適当に流して集会所を後にした。
そう、この村に於ける俺の舌戦はまだ完結してはいないのである。




