平和的交渉14
「なるほど、一理ある」
俺は杉下に蹴破られた戸口から覗いている者達にこの男を治療するように命じた。躊躇いつつも、回復魔法を習得している者や医療の知識がある者が進み出て治療を始めた。彼の脇から流れ出す血はすぐに止まった。
「俺達がいつまでもここに居座って、お前達を骨の髄までしゃぶり尽くすと思ったか? それはしないと断言しよう」
「信じられるか」
治療を受けながら、男が掠れた声で言った。まあ、彼等目線では無理もない話だ。
「信用させる根拠がある。お前等なんぞにたかっても大した旨みは無い」
「なっ!」
「なんだ? 自分達は脂の乗った豚だとでも思ったか? 自惚れるな。お前等はせいぜい痩せぎすの、野生の雄鶏がいいところだ。そういう目的なら、もっといい獲物がそこら中にいる。俺達がお前達にこうして取引を持ちかけているのは、手近な場所にいて、後ろ暗いところがあるために交渉がしやすく、俺達の能力を欲している可能性があり、かつ俺達が求めるものを持っていたからだ。それ以上でも以下でもない」
「では……取引とやらが終わったらここを出て行くのか?」
「お前達が望むならそうするつもりだ。だが、こちらの希望としてはある程度継続して取引がしたい。勿論一方的な搾取ではなく、互いに利のある取引をだ。まあ、その辺はお前達が追々判断すればいい」
俺の言葉が終わっても、男は暫く黙ったまま、一切口を開かなかった。更に間が空いて、男の治療が終わってしまった。血痕がべっとりと着いた服は雑に脱がされて隅に投げ捨てられており、白い包帯が男の胸部を覆っている。床に直接横たえられ、血を流した影響か顔色が優れないようではあるが意識ははっきりしているようである。
「お前達に物資を提供する期間は?」
「前金としては3日……いや、2日分で十分だ」
「我々が受けられる利益は?」
「奪われた食料の奪還と、おまけで攫われた村人達の安否確認。成功報酬として、奪還した食料の半分を貰う」
「そこで取引は終わりか? お前達は出て行くんだな?」
「お前達がそう望むなら。ただ、こちらはそこで改めて交渉したいと考えている。応じるかどうかはその時決めろ」
「また武器を突きつけて脅すのか?」
「今はこうしないと飢えて死ぬからこうしている。当面の食料さえ手に入れば取れる手段も変わる」
その場の全員の視線が、床に横たわる男の青い顔に注がれていた。
男は、ゆっくりと口を開いた。




