価値
翌朝。
工房には朝から村人が集まっていた。
「ガイル!」
「昨日のあれ、もう一個できたか?」
「うちにも欲しい!」
「いや、俺が先だ!」
普段は静かな工房の前が、小さな市場のようになっている。
ユウトは驚いた表情で父を見る。
「なんでこんなに?」
父は苦笑した。
「昨日、橋の修理に来ていた職人たちが広めたらしい。」
「そんなに便利だった?」
「職人は道具に敏感だからな。」
そう言って父は昨日作った木製固定具を作業台へ置いた。
「見てろ。」
村人たちは順番に触る。
「おお……。」
「木が動かねぇ。」
「これなら一人でも削れる。」
「欲しい。」
その言葉が何度も聞こえる。
ユウトは少し照れくさくなった。
自分が作った物が、こんなにも喜ばれるなんて思ってもみなかった。
⸻
しかし、父は首を横に振った。
「すまん。」
「まだ売れん。」
「え?」
村人たちも驚く。
「なんでだ?」
父はユウトを見る。
「まだ値段を決めてない。」
⸻
値段。
その言葉を聞いた瞬間、ユウトは固まった。
昨日まで考えたこともなかった。
作ることばかり考えていた。
「親父。」
「なんだ。」
「いくらなら売れると思う?」
父は少し考え込む。
「材料代だけなら銀貨二枚程度。」
「じゃあ銀貨二枚?」
「違う。」
「え?」
「お前は材料しか見ていない。」
父は作業台へ座る。
「作る時間。」
「……。」
「技術。」
「……。」
「失敗する可能性。」
「……。」
「全部値段なんだ。」
ユウトは黙って聞いていた。
父は続ける。
「いい物だから高いんじゃない。」
「人が、その価値を認めるから高いんだ。」
⸻
その言葉は雷に打たれたようだった。
価値。
今まで一度も考えたことがなかった。
自分は
「便利だから売れる。」
と思っていた。
違う。
便利でも
誰も欲しくなければ価値はない。
⸻
そこへ、一台の馬車が工房の前へ止まった。
村では見たこともない立派な馬車だった。
扉が開く。
中から一人の男が降りてくる。
黒いコート。
整えられた髭。
高そうな革靴。
腰には短剣。
どう見ても村人ではない。
「失礼。」
男は工房を見渡した。
「ここで面白い道具が作られたと聞きまして。」
父は一歩前へ出る。
「あなたは?」
「王都の商会です。」
男は笑顔で頭を下げた。
「レオン商会、副支配人のクラウスと申します。」
その瞬間、周囲がざわつく。
「王都?」
「商会?」
「なんでこんな村に?」
クラウスは木製固定具を手に取った。
何度か触る。
木材を固定する。
静かに頷く。
「面白い。」
そしてユウトを見る。
「これを作ったのは君かな?」
「……はい。」
「名前は?」
「ユウトです。」
「何歳?」
「十六。」
「そうか。」
クラウスは笑った。
「交渉しよう。」
⸻
父が眉をひそめる。
「交渉?」
「ええ。」
「何の。」
「この道具です。」
クラウスはゆっくり言う。
「百個。」
その場の空気が止まる。
「百個作っていただけませんか。」
ユウトも父も言葉を失った。
百個。
一つ作るだけでも半日近くかかる。
それを百個。
「もちろん。」
クラウスは笑顔のまま続ける。
「相応のお金は払います。」
父は静かに首を横へ振る。
「無理です。」
「理由を聞いても?」
「人手が足りません。」
「そうですか。」
クラウスは残念そうに頷く。
しかし帰ろうとはしなかった。
「なら。」
少し笑う。
「人を雇えばいい。」
⸻
その一言が、ユウトの胸へ深く刺さった。
人を雇う。
そんな発想、一度もなかった。
工房は家族だけでやるものだと思っていた。
だが。
人を雇えば。
もっと作れる。
もっと売れる。
もっと生活が良くなる。
もっと世界を変えられる。
⸻
その瞬間。
青白い文字が浮かんだ。
⸻
《文明ツリー更新》
新カテゴリー解放
【商業】
⸻
《新規目標》
工房を経営してください。
⸻
「経営……?」
ユウトは思わずその文字を見つめる。
能力は、また新しい道を示していた。
「作るだけでは世界は変わらない。」
「広める者こそが世界を変える。」
その意味を知る日は、もうすぐそこまで来ていた。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
第6話では、「ものづくり」から一歩進み、「商売」と「経営」という新しいテーマが動き始めました。
ユウトがこれから職人として成長するのか、それとも経営者として世界を変えていくのか――ぜひ楽しみにしていただけたら嬉しいです!
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次回、第七話「初めての商談」
ユウトは初めて「価値」と「利益」の世界へ足を踏み入れます。ここから物語は、職人の成長だけでなく、経営と文明革命へと大きく動き始めます。




