見えない設計図
橋の修理が終わる頃には、空はすっかり夕焼け色へ染まっていた。
父は額の汗を拭いながら大きく息を吐く。
「これでしばらくは大丈夫だろう。」
「親父。」
「ん?」
「もし橋を全部作り直すなら、どうする?」
父は少し驚いた顔をした。
「急にどうした。」
「いや、気になっただけ。」
「そうだな……」
父は橋を見つめる。
「今の村じゃ無理だ。」
「なんで?」
「木材も人手も足りん。それに橋一本造るにも金がかかる。」
その言葉を聞きながら、ユウトはもう一度橋を見る。
――見えろ。
そう思った瞬間だった。
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解析開始
構造物:木橋
耐久:52
損傷率:48%
改善可能箇所:126
推奨改善
・支柱追加
・荷重分散
・接合部変更
・木材品質変更
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「……!」
まただ。
今度ははっきり見えた。
青白い文字が橋全体へ重なるように浮かんでいる。
しかも、一本一本の木材が色分けされている。
赤。
黄色。
緑。
まるで危険な場所を教えているようだった。
「ユウト?」
父の声で我に返る。
「顔色悪いぞ。」
「いや……何でもない。」
言えるわけがない。
橋に文字が浮かぶなんて。
自分でも信じられない。
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家へ帰る途中も、ユウトは能力のことばかり考えていた。
あれは幻覚なのか。
病気なのか。
それとも本当に神から授かった力なのか。
「試してみよう。」
工房へ戻ると、父はまだ工具を片付けていた。
「親父。」
「なんだ?」
「この木、もらっていい?」
「端材なら好きに使え。」
「ありがとう。」
工房の隅に積まれていた木材を手に取る。
その瞬間。
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解析開始
樫材
品質:D
乾燥率:81%
加工適性:B
改善可能
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「木にも出る……。」
思わず呟く。
父には聞こえなかったようだ。
ユウトは次々と木材を手に取る。
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樫材
品質:D
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白樺
品質:C
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赤松
品質:E
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「全部違う……。」
見た目ではほとんど分からない。
それなのに能力は細かく判別している。
「じゃあ工具は……?」
ノコギリを持つ。
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木工用鋸
耐久:63
切断性能:D
改善可能
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金槌。
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木槌
耐久:91
改善不要
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「全部見える……。」
心臓が高鳴る。
この能力。
ただ見るだけじゃない。
“改善可能”
その文字がずっと気になっていた。
「改善って何だ?」
ノコギリをじっと見る。
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改善案を表示しますか?
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「表示。」
瞬間。
頭の中へ設計図が流れ込む。
刃の角度。
柄の太さ。
重心。
全部。
「うわっ!」
あまりの情報量に思わず後ろへよろけた。
「ユウト!」
父が駆け寄る。
「どうした!」
「だ、大丈夫。」
「顔真っ青だぞ。」
「ちょっと立ちくらみ。」
「今日はもうやめろ。」
父は珍しく心配そうな顔をしていた。
⸻
夕食。
母がスープを運ぶ。
「橋は直った?」
「応急処置だけどね。」
「また壊れそう?」
「そのうち。」
ユウトは黙ったままパンをかじる。
頭の中では設計図が何度も再生されていた。
もしあの通りに橋を作れば。
もっと丈夫になる。
でも。
「……。」
言えない。
説明できない。
父が何十年も積み重ねた技術を、自分が急に知っているなんて。
信じてもらえるはずがない。
⸻
夜。
家族が眠った後。
ユウトは一人で工房へ降りた。
月明かりだけが差し込む静かな工房。
昼間見たノコギリを手に取る。
「本当に改善できるのか……。」
設計図を思い浮かべる。
刃を少し削る。
柄の角度を変える。
重心をほんの数ミリだけ後ろへ。
作業は一時間ほどだった。
最後に息を吐き、ノコギリを持ち上げる。
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改善完了
品質:D→C
切断性能:向上
耐久:向上
初回改善成功
権限0.2%
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「権限が……増えた?」
昨日は0.1%。
今日は0.2%。
数字はほんの少ししか増えていない。
だが確実に変化している。
「やっぱり夢じゃない。」
ユウトは改良したノコギリを見つめた。
その時だった。
工房の入口から声がした。
「……ユウト。」
振り返る。
そこには父が立っていた。
改良されたノコギリを見つめながら、静かに口を開く。
「そのノコギリ……。」
「親父……。」
「お前……。」
父はゆっくりノコギリを受け取る。
一度だけ木材へ刃を入れた。
スッ――。
信じられないほど滑らかに木が切れる。
父の表情が変わる。
「……何をした。」
ユウトは答えられなかった。
能力のことはまだ誰にも言えない。
父はノコギリを見つめたまま、小さく呟く。
「こんな加工……俺でも思いつかなかった。」
工房に静寂が流れる。
そして、ユウトの視界に新たな文字が浮かんだ。
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新規カテゴリー解放条件を確認しました。
【創造】まで残り1%。
⸻
「創造……?」
その言葉の意味を知る日は、まだ少し先だった。
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