名前のない才能
2作品めです
頑張って連載していきます!
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朝日が山の向こうから昇り始める頃、小さな木工村は今日も静かに目を覚ました。
森に囲まれたこの村は、王都から馬車で五日。
良質な木材が採れることで知られているが、それだけだ。
裕福でもなければ、大きな産業もない。
村人は朝から晩まで木を切り、削り、家具や道具を作って暮らしている。
そんな村の外れに、一軒の古びた工房があった。
「ユウト! 起きろ!」
二階まで響く父の大きな声。
「……あと五分」
「昨日も五分って言って三十分寝てただろ!」
「今日は四分」
「変わらん!」
ドタドタと階段を駆け下りる音。
扉が勢いよく開き、栗色の髪を寝癖だらけにした少年が飛び起きた。
「起きた! 起きたから!」
「早く顔を洗ってこい。」
「はいはい。」
少年――ユウトは大きく欠伸をすると、窓を開けた。
冷たい朝の空気が部屋へ流れ込む。
森の香り。
鳥の鳴き声。
今日もいつもと同じ朝。
それなのに、不思議と胸が高鳴っていた。
「親父!」
「なんだ?」
「昨日考えてた椅子なんだけどさ。」
「朝飯食ってからにしろ。」
「いや、でも!」
「飯。」
「……はい。」
母が笑いながらパンを並べる。
「また発明?」
「発明じゃないよ。」
「じゃあ何?」
「ちょっと良くするだけ。」
「それを発明って言うのよ。」
母の言葉にユウトは苦笑した。
昔からそうだった。
壊れた椅子を見ると直したくなる。
使いにくい道具を見ると改良したくなる。
誰かが困っていると、「もっといい方法があるんじゃないか」と考えてしまう。
「昨日の椅子さ。」
「うん。」
「脚を少しだけ斜めにした方が安定すると思う。」
父はパンをかじりながら首を傾げた。
「昨日完成したばかりだぞ?」
「でも重心が少し前なんだよ。」
「……また変なことを言う。」
朝食を終えると、ユウトは真っ先に工房へ向かった。
木の匂い。
削り屑。
工具が並ぶ壁。
子供の頃から一番好きな場所だった。
「親父、昨日の椅子貸して。」
「好きにしろ。」
完成した椅子を眺める。
何度見ても違和感がある。
「ここかな。」
脚を数ミリ削る。
座面を少し削る。
補強材を一本追加する。
作業時間は十分もかからなかった。
「終わった。」
父が椅子へ腰掛ける。
「……。」
もう一度立つ。
また座る。
「……おい。」
「何?」
「なんで前より座りやすい。」
「やっぱり?」
「やっぱりじゃない。」
父は椅子をひっくり返して裏側を見る。
「構造を変えたのか?」
「少しだけ。」
「……誰に教わった。」
「誰にも。」
父は何も言わなかった。
ただ、じっと椅子を見つめていた。
その時だった。
工房の外から村人が飛び込んできた。
「ガイルさん!」
「どうした?」
「橋がまた壊れた!」
「またか……。」
村の入口にある小さな木橋。
雨が降るたび傷み、何度も修理を繰り返している。
「荷車が渡れない!」
「今行く!」
父は工具箱を抱えて飛び出した。
ユウトも後を追う。
橋には十数人の村人が集まっていた。
「完全に割れてる。」
「木を替えないと駄目だ。」
「また一週間かかるぞ。」
父が橋を見つめる。
ユウトも隣へ立った。
その瞬間だった。
世界が止まる。
耳鳴り。
視界が白く染まる。
そして。
橋全体に、青白い線が浮かび上がった。
木材一本一本。
釘。
荷重。
亀裂。
全てが図面のように見える。
「……え?」
頭の中へ、知らない知識が流れ込む。
⸻
解析開始。
構造物:木橋
損傷率:48%
崩落予測:17日後
改善案:126件
最適解を表示しますか?
⸻
「……なんだ、これ。」
誰の声でもない。
頭の中へ直接響く機械的な声。
青い文字。
知らない言葉。
世界そのものが設計図へ変わっていく。
「ユウト!」
父の声で我に返る。
「どうした!」
「……いや。」
橋を見る。
さっきまで見えていた文字は消えていた。
夢だったのか。
疲れているだけか。
そう思った、その時。
視界の端に、小さな文字だけが残った。
⸻
UNKNOWN
権限認証中……
0.1%
⸻
「権限……?」
その意味を、この時のユウトはまだ知らない。
だが、この日。
世界は静かに動き始めた。




