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橄欖色のアーカイブ  作者: 藍川 卯木子
橄欖色のアーカイブ ー日常編ー

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第25話 宵月カナト編 10

 ミツハとハルカが亀子を手伝い、食器を洗い終えると、ミツハは「寝る」と短く告げて自室へ戻っていった。

 一方のハルカは、紙袋を抱えてリビングへ戻ってくる。


「ほら、カナトのために買ってきたんだ。惑星セブンの名物らしいよ」


 そう言いながら、テーブルの上に小箱をいくつも並べていく。


「見た目は寒天っぽいけど――ただの甘味じゃないんだぜ」

「ただの甘味じゃない?」


 宵月が首を傾げると、ハルカは待ってましたとばかりに箱を開いた。

 中に収まっていたのは、ガラス細工を思わせる透き通った菓子だった。

 氷の塊のように透明なゼリー。その脇には、小さな瓶に入った無色透明の蜜が添えられている。


「この蜜をかけてみて」

「こうですか?」


 宵月が瓶を傾ける。

 蜜が一滴、ゼリーの表面に落ちた。

 その瞬間――。

 透明だった菓子の中で、淡い光がふっと弾けた。

 虹色のきらめきが表面を滑り、細かな光の粒が次々と浮かび上がっていく。まるで、夜空を閉じ込めたようだった。


「……綺麗だ……」


 宵月の青みを帯びた瞳にも、その光が映り込む。

 ハルカは満足そうに胸を張った。


「すごいだろ! 『星のあまつゆ』っていうんだ。惑星セブンの職人が作ってるんだってさ。ほら、食べてみなよ!」


「では、いただきます」


 宵月はスプーンを手に取り、透き通った菓子をそっとすくった。

 口に入れた瞬間、ひんやりとした感触が舌の上に広がる。

 寒天よりも柔らかく、ゼリーよりも弾力がある。それでいて、噛む必要もないほど滑らかにほどけていった。

 蜜の甘さは驚くほど控えめだった。

 だからこそ、菓子そのものの淡い風味がよくわかる。

 口の中に残るのは、淡雪のような、かすかな甘み。


「……ゼリーでも寒天でもない。不思議な食感ですね」


 宵月はもう一口すくい、味わうように舌の上で転がした。


「それに、この上品な甘さ……とても美味しい。ありがとう、ハル兄様」


 ふっと口元が緩む。


「だろー!」


 ハルカは、にっしっし、と歯を見せて笑った。


「カナトが喜ぶと思ってさ。もっと買ってくればよかったなあ」

「十分ですよ。こんなに美味しいものをいただけて、嬉しいです」


 宵月が最後の一口を食べ終え、スプーンを静かに置いた。

 そのときだった。


「カナト」


 背後から声がした。

 振り向くと、いつの間にかアサミがリビングの入口に立っている。


「ちょっと、私の部屋に来てくれるかい」


 穏やかな声音だった。

 けれど、いつもの柔らかな調子とはどこか違う。

 宵月は兄の顔を見つめた。

 アサミは微笑んでいる。

 

「はい」

「後片付けは俺がやっとくから、気にすんな」


 ハルカはそう言うなり、空になった小箱や食器を手際よく片付け始めた。


「ありがとう、ハル兄様」

「任せとけって!」


 明るい声を背に、宵月はアサミのあとを追ってリビングを出た。

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