第3話 アルス編 3
病院を退院してからのこの一ヶ月、アルスはカフェ・ラートでの勤務と並行して、アーカイブからの仕事も何度か引き受けていた。当初は両立できるか不安もあったが、アーカイブの構成員であり調整役でもある才原が、絶妙なスケジューリングで間を取り持ってくれたおかげで、無理なく業務に取り組めていた。
しかも今回の仕事は、かつてのアンビジブル事件のように命を懸けて前線に立つようなものではない。主に資料整理や記録の精査といった、事務作業が中心だった。 その分、精神的にも余裕があり、アルスは落ち着いた気持ちで“組織の一員”としての自分を少しずつ受け入れ始めていた。
百五十年前に発生した世界規模の大災厄――それによって人類の人口は激減し、今なお多くの分野で人手不足が続いている。
近年ようやく人口の回復が見られるものの、現場ではまだまだ人員が足りていないのが実情だった。だからこそ、週に数回とはいえアルスが事務所に顔を出してくれることを、才原は心から歓迎していた。
一方、アルスの脳裏を離れない人物もいた。――東郷だ。
アンビジブル事件で共に戦い、病院でも顔を合わせた彼女とは、それ以来ろくに会話を交わせていない。すれ違いざまに挨拶を交わす程度のやり取りしかなく、その疲れた表情が気がかりだった。アルスはある日、宵月や才原にそっと東郷の様子を尋ねてみた。
その答えは、ひとまず安心できるものだった。
どうやら東郷にも、近いうちにようやくまとまった休暇が取れる見通しが立ったという。激務続きの彼女を案じていたアルスは、その知らせに小さく安堵の息を漏らした。
さらに話を聞くと、アーカイブに所属する構成員たちはそれぞれ本業を持っていたり、学生として学業をこなしていたりと、多忙な日常の合間を縫って活動しているという。
しかし、緊急時を除けば、必ず適切に休みを取れるよう配慮されており、事務所には最低二名が常駐するようシフトが組まれているとのことだった。
組織でありながらも、個々の生活を尊重する柔軟さと、同時に任務を全うするための責任感―― その絶妙なバランスに、アルスは内心、静かに感心していた。
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