↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
橄欖色のアーカイブ  作者: 藍川 卯木子
橄欖色のアーカイブ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/120

第46話 4月24日 実験施設『エルズニル』低層階 真夜中 2

 アルスは思わず目を見開いた。


 瓦礫と血に染まった戦場のど真ん中に――純白のウエディングドレスをまとった男が立っている。


 ジーノ・オルフェイ。


 どう考えても場違いな格好だ。


 なのに、不思議と似合っている。


 その姿は、灰色の戦場へ突然舞い降りた異物のようだった。


 助かった――。


 安堵が胸を満たす。


 だが同時に、あまりにも衝撃的な格好に言葉が出ない。


 代わりに、倒れていた宵月が苦々しく呟いた。


「……趣味に口を挟む気はないが、その格好はどうかと思う」

「好きで着てるわけねぇよ」


 ジーノは肩をすくめた。


「職場の連中に無理やり試着させられたんだ。脱ぐ暇もねぇまま、おまけに非番なのに飛んできてやったんだぞ?」


 鼻を鳴らして笑う。


「少しくらい感謝しろよ」


 アルスは苦笑しながら問いかけた。


「でも……どうして、こんなに早く来られたんですか?」

「簡単な話だ」


 ジーノは親指で自分を指す。


「東郷の旦那が場所を送ってくれてた。それに俺の能力なら、携帯に登録してある相手の位置くらいすぐ分かる」

「だから一直線ってわけ」


 得意げに胸を張る姿は、妙に堂々としている。

 ……純白のドレス姿なのに。


「でも、電話……僕が名乗る前に切れちゃいましたよね?」

「ああ」


 ジーノはあっさり頷く。


「番号は登録してなかった。でも、このタイミングで俺に電話してくる奴なんて、お前くらいだろって思っただけだ」

「意外と勘なんですね」

「失礼な。俺、こう見えて結構マメなんだぜ?」


 そこでジーノは宵月へ顔を向ける。


「とにかく俺が来た。お前はそのガキども守ることだけ考えろ」


 宵月は睨み返した。


「……あなたも十分無茶をしています」

「お互い様だろ」


ジーノは笑う。


「あっちで暴れてるのは東郷の旦那か」


 視線の先では、東郷がなおも敵を相手に剣を振るっていた。


「あの人が押されるなんて珍しいな」

「実力では東郷さんが上です」


 宵月は血を吐きながら答える。


「ですが……相手の再生能力が異常です」

「なるほど」


 ジーノは口角を吊り上げた。


「じゃあ雑魚は俺が引き受けるか――教祖代理様」


 気絶していたソウレンがゆっくりと起き上がる。


「……あなたも、アーカイブの一員でしたね」

「ああ」


 ジーノは軽く手を挙げた。


「覚えててもらえて光栄だ」


 純白のスカートが風に揺れる。

 その姿は滑稽なはずなのに、不思議と堂々としていた。


「飛んで火に入る夏の虫です」


 ソウレンが静かに告げる。


「あなたから始末して差し上げましょう」

「そうこなくちゃ」


 ジーノは一気に踏み込んだ。

 ドレス姿とは思えない軽やかな動きで距離を詰める。

 するとソウレンが拳を地面へ叩きつけた。


 ――ドゴォン!!


 地面が隆起し、巨大な岩壁が立ちはだかる。


「この足場は、お気に召しましたか?」

「おう」


 ジーノは瓦礫を蹴って一気に跳ぶ。


「むしろ助かる」


 岩壁を足場にして、一瞬で頭上を取った。


「なっ……!」


 ソウレンの表情が初めて崩れる。


「終わりだ」


 ジーノはポケットから丸薬を一粒取り出し、迷いなく投げた。


「ソウレン様!」


 するとアヤメとイザナが飛び込み、その身を盾にする。


 パァンッ!


 丸薬が弾け、白煙が広がった。


 次の瞬間、二人は白目を剥き、その場へ崩れ落ちる。


「……」


 戦場が一瞬だけ静まり返った。

 ジーノは肩をすくめる。


「悪友特製、激臭丸薬だ」

「直撃すりゃ数時間は起きねぇ」


 そう言いながらアルスを押さえつけていた瓦礫を手際よくどかし、手を差し伸べる。


「立てるか?」

「ありがとうございます……」


 アルスはその手を借りながら首を傾げた。


「激臭丸薬……?」

「ああ」


 ジーノはもう一粒取り出した。


「普段は無臭。でも砕けた瞬間だけ、とんでもねぇ臭いが半径三十センチにだけ充満する。嗅いだ奴は、だいたい気絶だ」


 アルスは顔をしかめる。


「……何でできてるんです?」


「その時ある材料だな」


 ジーノは指を折り始める。


「この前アイツが言ってたのは――腐り果てた○○の○○に、下水から掘り起こした◯◯、それからドブで拾った――」

「聞きたくないです!」


 アルスは慌てて両耳を塞いだ。

 背筋がぞくりと震える。


(ジーノさんの悪友だけは……絶対に敵に回したくない)


 そんなアルスを見て、ジーノは愉快そうに笑う。


「でも半径三十センチ限定って発想、天才だろ?」

「俺まで巻き込まれたら意味ねぇからな。無理言って調整してもらったんだ」


 そう言うと、丸薬をアルスの鼻先へ突き出した。


「ほら。試しに嗅いでみるか?」

「やめてください!!」


 アルスが全力で身を引く。

 ジーノは腹を抱えて笑った。


「はははっ! 冗談だって!」


 その笑い声に、張り詰めていた戦場の空気が、ほんの少しだけ和らいだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。