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橄欖色のアーカイブ  作者: 藍川 卯木子
橄欖色のアーカイブ

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41/121

第41話 150年前 実験施設『エルズニル』 1

 軍事施設を後にした天花たちは、実験施設エルズニルへ向かっていた。

 ナタルも同行している。天花の身に万一の事態が起きた際、補助要員として控えるためだ。

 念願だったアンビジブルの操縦者に選ばれた――それなのに、天花の胸は晴れなかった。


 本当に自分でよかったのだろうか。


 皆が期待していたのはナタルだった。自分が選ばれたこと自体、何かの間違いではないか。

 そんな拭いきれない迷いが、胸の奥に重く沈んでいた。

 その変化を、ナタルはすぐに察した。


「どうしたんだい? せっかく操縦者に選ばれたのに、あまり嬉しそうじゃないね」


 天花は一度だけ顔を上げる。しかしすぐに視線を落とし、小さく息を吐いた。


「……みんな、お前が選ばれると思ってた」


 少し間を置き、苦笑する。


「情けないけど、私もそう思ってた。だから……まだ納得できないんだ」


 そこまで本音を打ち明けられるほど、二人の間にはいつしか信頼が育っていた。

 ナタルは目を細め、穏やかに微笑む。


「僕は、君が選ばれてよかったと思ってるよ」


 その言葉には、一切の迷いがなかった。

 しばらく前を見つめたまま歩いていたナタルは、静かに口を開く。


「昔の僕はね、自分の力だけを信じてクンストンを狩り続けていたんだ」


 天花が顔を上げる。


「助けを求められれば、何も考えず戦った。目的なんてなかったよ。ただ命令されるまま……機械みたいにね」


 淡々とした口調だった。

 けれど、その静けさがかえって、積み重ねてきた年月の重さを感じさせる。


「……まさか」


 天花は目を見開く。


「『橄欖色の天使』って呼ばれてたのは……お前なのか?」


 ナタルは少しだけ驚いたように瞬きをしたが、すぐ寂しげに笑った。


「天使なんて、そんな綺麗なものじゃないよ」


 ゆっくりと首を振る。


「僕は……ただの殺戮者だった」


 その一言だけで十分だった。

 自嘲も後悔も、その短い言葉にすべて滲んでいた。


「同胞を守るためだと信じて戦っていた。でも戦えば戦うほど心は削れて、感情も少しずつなくなっていった」


 遠くを見るように空を仰ぐ。


「そんな時だったんだ。あの人と出会ったのは」


 その瞬間だけ、ナタルの表情が柔らかくなる。


「初対面で、真顔のまま言われたよ。『俺は全宇宙を救う男だ!』って」

「……は?」


 天花は思わず眉をひそめた。

 あまりにも突飛な言葉だった。

 ナタルは思い出し笑いを浮かべる。


「僕も最初は馬鹿な人だと思ったよ。でも、彼は本気だった」


 少し笑ってから、続ける。


「それからこう言ったんだ。『誰も報われない戦いなんて、終わらせなきゃいけない。その方法を俺は探してる』って」


 天花は何も言わず、その続きを待つ。


「彼のおかげで知ったんだ。この宇宙にはクンストンだけじゃない。数え切れないほど多くの種族が、それぞれの人生を生きている」


 ナタルは静かに笑う。


「敵か味方か。それだけで割り切れるほど、この世界は単純じゃなかったんだ」


 その言葉は、不思議と天花の胸へすっと染み込んでいく。

 張り詰めていた心が、少しずつほどけていくのを感じた。


「だからね、天花」


 ナタルは立ち止まり、まっすぐ彼女を見つめる。


「君は復讐のためにアンビジブルへ乗ると言っていた。でも……それが君の本当の願いだとは、僕には思えない」


 天花は黙ったまま視線を受け止める。


「君は、本当は平和を望める人だ」


 その声は優しく、それでいて揺るぎなかった。


「過去は変えられない。でも未来は変えられる。その力を、君は手にしたんだ」


 少し照れくさそうに笑う。


「まだ数か月の付き合いだけど、それでも僕は君を見てきた」


 その笑顔は、まるで太陽のように眩しかった。

 真正面から受け止めることができず、天花はふいと顔を背ける。


「……たった数ヶ月で私の何がわかるんだよ」


 照れ隠しのような小さな呟きに、ナタルは何も返さず、ただ優しく微笑むだけだった。


 翌日。


 天花は覚悟を決め、アンビジブルの待つ格納区画へと足を運ぶ。

 それが、自分の人生を根底から覆す一日になるとは、まだ知る由もない。

 彼女を待っていたのは――想像をはるかに超える、あまりにも残酷な現実だった。

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